新年早々イタいニュースだ。サッポロビールとファミリーマートが共同開発した新商品のビールが、スペルミスにより発売中止に追い込まれた。「LAGER」を「LAGAR」と誤って表記したというのだ。確かによく見ると「E」のところが「A」になっている。担当者は穴があったら入りたい気分だろう。ミスは誰にでもある、と慰めたところで救いにはなるまい。担当部署の責任者は首を洗って、会社からの厳しい御沙汰を待っているところか。

 

 スペルミスと言えば、プロレスに次のような例がある。ミスター・ポーゴ(Mr.POGO、本名・関川哲夫)というレスラーをご存知か。ヒールとして日米のリングをまたにかけて暴れ回った。米国ではハーリー・レイス、リック・フレアー、ダスティ・ローデス、テリーとドリーのザ・ファンクスらビッグネームたちと抗争を繰り広げた。

 

 このポーゴ、プロレス評論家の小佐野景浩によると最初は「ミスター・トーゴー(Mr.TOGO)」を名乗ろうとしたという。日露戦争の英雄・東郷平八郎の「トーゴー」である。というのも、当時の日本人・日系人レスラーの多くが米国では「トーゴー」もしくはA級戦犯の東条英機からとった「トージョー」を名乗っていたからだ。米国人の憎悪を買うことがヒールとしての地位確立につながったのだ。

 

 A級戦犯の「トージョー」に比べれば、日露戦争の英雄で連合艦隊を率いた「アドミラル・トーゴー」は、太平洋戦争の7年前に世を去っているため、憎悪の色は薄い。そこでポーゴはワンクッション置こうとして「トーゴー」を名乗ろうとしたようだが、小佐野によるとプロモーターのテリー・ファンクが「T」と「P」を間違えてしまったというのである。何と何とこれが「ポーゴ(POGO)」誕生秘話なのだ。

 

 しかし、結果オーライというべきかケガの功名というべきか、この奇妙なリングネームが米国人にはウケた。テリーは自らのネーミングセンスを誇ったそうだが、それはたまたまだろう。

 

 ビールに話を戻せば、ミスによって認知度が高まり、この先はレア感も増すのだから、1年くらいは「LAGAR」のままでいいのではないか。冒頭で「イタいニュース」と書いたが、コロナで気分の滅入るこの時節、思わず頬の緩む話題はありがたい。そんなわけでビールもヒールの成功譚を参考にした方がいい。

 

<この原稿は21年1月13日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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