伊藤数子: 昨年11月、東京パラリンピック卓球日本代表の岩渕幸洋選手と共に開催したパラ卓球イベント「IWABUCHI OPEN」は大盛況だったと伺いました。

上原大祐: イベントにはパラ卓球選手の対戦相手として、リオデジャネイロオリンピック団体銀メダリストの吉村真晴選手、2012年の世界選手権団体銅メダリスト・松平賢二選手が参加してくれました。最初は車いすの操作に苦戦していたものの、手首の返しの上手さを生かしたラケットさばきは見事でした。パラ卓球選手も手首の返しを鍛えることで、よりレベルアップできる、と気付きました。選手や観客の皆さんに楽しんでもらうことが目的でしたが、いろいろと発見がありましたね。

 

伊藤: 他にはどんな発見が?

上原: 記者の方からは「パラ卓球大会に行くと、立位と車いすの部が一斉に行われ、車いす卓球をじっくり見ることがなかったから、今回は競技に集中できた」という声もいただきました。カテゴリーを絞ることで、ひとつの競技を集中して見てもらいやすくなる。その方が競技の魅力を伝えられると改めて感じた大会です。このような手法を他のスポーツイベントでも応用できると感じました。

 

二宮清純: コロナ禍でたくさんの制限や制約がある中、イベントを開催することは大変だったと思います。車いすテニスの国枝慎吾選手は、このコロナ禍において「自分たちは制約や制限に慣れている。だから、そんなに慌てていない」と言っていたのが印象的でした。

上原: そう思いますね。私は足の機能を失っていますが、どんな状況にも対応しながら毎日生活をしています。障害のある人は日々、工夫を凝らしながら生きている。だから障害のある人の中にはアイディアマンがたくさんいるんです。

 

二宮: 障害のある人たちはバリアをどうクリアしていくかを常に考えているんですね。

上原: そうなんです。私は障害者目線で使いやすいものをつくれば、障害の有無に関わらず、よりたくさんの人が使いやすいものになると考えています。アパレルブランドとコラボして新しい洋服をつくったり、地域と協力して着物をつくったりしています。

 

二宮: 新しい洋服とはどのようなものでしょうか?

上原: ひとつ例をあげると、車いすユーザーのためのスカートをつくりました。このスカートはウエストから裾までを縦につなぐ5つのファスナーがついています。ファスナーの調整次第でタイトスカートになったり、フレアスカートになったりするんです。自分の好みのかたちにカスタマイズできますし、着脱が簡単です。車いすユーザー用のスカートとしてつくりましたが、車いすユーザー以外の方からも人気を得ています。

 

伊藤: 地域と協力してつくった着物とは?

上原: 石川県の中能登町と一緒に進めたプロジェクトです。中能登町は織物・繊維業の町なので、その技術を生かしながら、産業を盛り上げようと始めました。きっかけは私が「車いすに乗ったままだと着物を綺麗に着られない」という悩みを持っていたからです。その課題を解決するため、車いすに乗っていても綺麗に着こなせるものをつくりました。最初は自分のためにつくった製品ですが、車いすユーザーで着物を着ることができなかった女性にも喜んでもらえました。これは着物という「伝統文化」と個人の「課題」との掛け算です。

 

 ニッチではなくビッグ

 

二宮: 地域創生、振興につながりますよね。これまでの着物と具体的にどこが違うのでしょうか?

上原: 上下がセパレートになっています。ズボンのように履き、シャツのように羽織り、ベルトのように帯を締められる。簡単に着られるので、着付けがわからなくても大丈夫。インバウンドで海外から来ている人たちのお土産としてもオススメです。

 

二宮: この着物なら人の手を借りずに自分で着られるから、高齢の方でも簡単に着られますね。市場はさらに広がっていきそうですね。

上原: 障害のある人向けにつくるものはニッチ市場だと思われがちですが、私はニッチではなくビッグな市場だと思っています。

 

伊藤: 上原さんはD-SHiPS32での活動など、その活躍は多岐に渡っています。2016年に入社したNECでは、どのような仕事をされているのでしょうか?

上原: NECにはD-SHiPS32でのパラスポーツやバリアフリーを広げていく活動を認められ、入社しました。D-SHiPS32での活動とNECでの仕事はパラスポーツを推進し、共生社会実現を目指すという目的で一致しています。一緒にパラスポーツイベントを開催しますし、自治体を加えた3者で協力してイベントを行うこともあります。

 

伊藤: D-SHiPS32とNECとのWIN-WINではなく、そこに自治体などが加わってWINが3つ以上あるような取り組みですね。

上原: まさにそうですね。今、進めている自治体との取り組みはトイレの課題解決です。車いすユーザーにとって旅行の際、深刻なのがトイレ事情なんです。最近は身障者用のトイレにベビーシートが設置されるようになってきましたが、これだけでは不十分です。なぜなら小学校高学年でも障害によっては、おむつ替えが必要な子もいます。小学校高学年の体では大き過ぎてベビーシートに乗せられない。必要なのはユニバーサルベッドなんです。これは障害の有無だけに限らない問題です。ユニバーサルベッドならば、ご高齢の方のおむつ替えもできますからね。

 

二宮: 国内のトイレ事情はまだまだユニバーサルデザインが浸透していないということでしょうか?

上原: はい。今はまだ「ベビーシートだけじゃダメなの?」と考える人が多いという印象ですね。私は日本のトイレ事情を変えることで、世の中の意識、文化も変えていきたい。まずは各自治体の方々と日本のトイレの課題解決に取り組んでいこうと考えています。

 

二宮: 今後に向けてはどんな活動を?

上原: 私はパラスポーツと異分野との掛け算をしたいと思っています。大学生、県民、市民、観光などと掛け算をすることで、パラスポーツの魅力を伝えると同時に、コラボをした側とメリットが共有できるような活動をしていきたいですね。

 

(おわり)

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上原大祐(うえはら・だいすけ)プロフィール>

NPO法人D-SHiPS32代表理事。1981年12月27日、長野県出身。生まれながらに二分脊椎という障害を持つ。19歳からパラアイスホッケーに本格的に取り組み、3度のパラリンピックに出場(2006年トリノ、2010年バンクーバー、2018年平昌)。バンクーバーパラリンピックでは準決勝で決勝ゴールを決めるなど銀メダル獲得に貢献した。2014年にはNPO法人D-SHiPS32を立ち上げ、障害のある子供のサポートや、パラスポーツがもっと身近になる日本づくり、障害者向け商品のアドバイザーなどの活動を行っている。2016年にはNEC東京オリンピックパラリンピック推進本部障害攻略エキスパートとして入社。現在まで自治体と連携しながらパラスポーツ推進地域モデル作りをしている。

 

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