北海道日本ハムの梨田昌孝監督が高校生ドラフト1巡目の大物ルーキー中田翔について「交流戦では甲子園の時のようにマウンドに上げるかもしれない」と仰天プランをブチ上げた。
 高校(大阪桐蔭)時代、通算87本のホームランを記録した中田だが、投げても最速151キロのスピード自慢。梨田監督がピッチャーとしての魅力を捨てきれないのもわからないではない。

 しかし、梨田監督がどこまで本気なのかは疑わしい。多分にマスコミへのリップサービスも含まれているのではないか。
 日刊ゲンダイ(1月23日付)によると、年が明けてから3週間が経った時点で、スポーツ紙(関東地区6紙)の一面登場回数は中田が17回で最多だったという。そう言えば去年の今頃は、やっぱりパ・リーグのマー君(楽天・田中将大)が出ずっぱりだった。
 かつてキャンプイン前のスポーツ紙の一面といえば巨人の大物ルーキーが独占したものだが、最近は「あれ、今年の巨人の1巡目ルーキーって誰だっけ?」と聞き返したくなるほど影が薄い。ちなみに今年は高校生が藤村大介(熊本工)、大学生・社会人は村田透(大体大)である。

 4年ぶりにユニホームを着る梨田監督のリップサービスはとどまるところを知らない。
 オフに昨季のセ・リーグ最多勝投手セス・グライシンガー(元ヤクルト)、打点王でリーグ最多安打記録を更新したアレックス・ラミレス(同前)、160キロ男のマーク・クルーン(元横浜)を同リーグから獲得した巨人に対しては、こう挑発した。
「ちょっとやりすぎ。やる前から勝ち組と負け組に分かれてしまう。勝てばいいというものではない」

――交流戦は?
「3勝1敗で勝ち越したい。いかにそういう補強が無駄だったかということを各チームが知らしめないといけない」
 梨田監督といえばイメージは温厚な二枚目。NHKの解説者時代は理論派として通っていた。
 その梨田氏、現場に復帰するや、いやはやよくしゃべる。ことオフの発言だけ取り上げると、巨人・原辰徳監督や阪神・岡田彰布監督より目立っていた。
 さすが、パ・リーグ出身の監督である。マスコミはどういうネタを欲しがっているのか、それを熟知している。

 近鉄、オリックスで14年間に渡って指揮を執った仰木彬氏(故人)は、生前、私にしみじみとこう語ったものだ。
「パ・リーグはセ・リーグに比べ、お客さんの数が少ない。マスコミの露出も少ない。強いだけでは、なかなかマスコミも相手にしてくれない。だから、どうしたらマスコミに取り上げてもらえるか、そこに知恵を絞ったものです。
 だから試合後は毎晩のように記者たちと飲んでいました。私が出したアイデアに記者が反応してくれれば、これはいけると。逆に記者たちから出てきたアイデアに面白いものがあれば“それ、いけるやないか”と。僕がお墨付きを与えれば、記者たちも自信を持って書くことができますから。
 僕がマスコミの大切さを知ったのは、やはりパ・リーグ育ちだからでしょうね。巨人や阪神のような人気球団は何もしなくてもお客さんが入ってくれる。しかしパ・リーグの場合、そういうわけにはいかない。僕が“パ・リーグの広報部長”を名乗るようになったのは、そういう理由からですよ」

 ちなみにメジャーリーグで活躍するイチロー(マリナーズ)の名付け親も仰木氏である。本名の鈴木一朗ではあまりにも平凡だということで、父親と相談してファーストネームをカタカナで登録したというのだ。
「チームにスターが誕生すれば、他の選手にも光が当たるようになる。ひいてはチーム全体の価値向上につながっていく。
 しかしスターは待っていても生まれるものじゃない。マスコミをうまく使って、周りがスターダムに持ち上げてやらなくちゃいけないんです」

 また仰木氏は近鉄の監督時代に野茂英雄(ロイヤルズとマイナー契約)の個性と能力に目をつけ、西武の若き4番打者・清原和博(現オリックス)との“平成の名勝負”も演出している。伝家の宝刀フォークボールを封印し、どこまでもストレート勝負にこだわる野茂は、勝負どころでしばしば清原に手痛い一発を浴びた。
「ベンチから“フォークを使え”と指示しないんですか?」
 そう問うと、仰木氏は苦笑を浮かべてこう答えたものだ。
「正直、そう思うことはあります。でも若い2人の対決をお客さんが心待ちにし、堪能してくれている。プロ野球発展のためには、これでいいんですよ」

 梨田氏は近鉄時代、仰木コーチ、仰木監督の下でプレーしている。スターを育て、チームを活性化させる。そしてプロ野球を盛り上げる――。仰木氏に続く“パ・リーグ2代目広報部長”の誕生である。

<この原稿は2008年2月19日号『経済界』に掲載されたものです>

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