ワンチームとオールジャパン。18日に都内で行われた橋本聖子組織委会長の就任会見。彼女は先の二つの言葉に力を込めた。

 

 まずワンチームだが、これは組織委に向けられたものだろう。内閣総理大臣まで務めた森喜朗前会長は、良く悪くもワンマンであり、ラスボスの趣があった。その森が退場した今、権力の空白を埋めるのは容易ではない。実務は専務理事の武藤敏郎事務総長が仕切るにしても、IOCや政府、東京都、関係団体とのタフな交渉を新会長ひとりが担うのは困難だ。

 

 そうでなくても組織委は各省庁や都、民間企業からの“寄せ集め”の色が濃い。ラスボスが去り、重しのとれた組織を、もう一度引き締め直すには、新会長自身が君臨型ではなく奉仕型(サーバント)のリーダーであることを予め明確にしておく必要がある。求められるのはワンマンチームからワンチームへの速やかな移行である。

 

 続いてオールジャパン。周知のように組織委と都の関係は、これまで必ずしも良好とは言えなかった。両者の関係が決定的に悪化したのは、2019年10月にIOCが決めたマラソン会場の札幌移転。森と橋本が事前にIOCから報告を受けていたのに対し、小池百合子都知事は寝耳に水だった。蚊帳の外に置かれた小池がIOCや組織委に不信感を抱くのは当然である。

 

 しかし、この期に及んでもまだ角突き合わせているようではIOCを利するだけだ。今、必要なのは毛利元就の逸話ではないが、橋本と小池、丸川珠代五輪相による“三本の矢の結束”である。橋本はオールジャパンという言葉を借りて、それを訴えたのだろう。

 

 懸念材料はまだある。離党したとはいえ、政治家としての橋本の本籍地は自民党細田派である。丸川も細田派だ。派閥の領袖である細田博之元自民党幹事長は党の観光産業振興議員連盟会長も務める。昨年10月には大会の開催方式に言及し、「無観客で実施すれば、観光業は危機に瀕してしまう」と警戒感をにじませた。

 

 一方、今年に入りIOC委員からは“無観客発進”ともとれる発言が相次いでいる。巨額の放映権収入さえ確保すればIOCにとって、組織委の取り分であるチケット収入の赤字など知ったこっちゃない。翻って身内からは“無観客阻止”の声。インバウンドで景気を刺激し、政権浮揚に結びつけたいとの思惑が透ける。内憂外患とはこのこと。火中の栗を拾う心労、お察し申し上げる。

 

<この原稿は21年2月24日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


◎バックナンバーはこちらから