公益財団法人日本ケアフィット共育機構は<誰もが誰かのために共に生きる社会>を目指し、介助士の共育・認定・普及に取り組み、ブラインドサッカーの大会などで介助ボランティアとしてパラスポーツの現場に関わってきた。2020年には活動戦略として「誰もが誰かのために共に生きる委員会」(チーム誰とも)をスタートした。同機構の理事で事務局長を兼ねる高木友子氏に、「チーム誰とも」の活動について訊いた。

 

※取材は3月1日にWEBインタビューで実施

 

伊藤数子: 昨年2月に東京大学で、社会がつくり出す障害を体験できる「バリアフルレストラン」のテストイベントを開催し、多くの反響がありました。

高木友子: 私たちは誰もが暮らしやすい共生社会をつくりたいと考え、活動をしています。そのために「誰もが誰かのために共に生きる委員会」(チーム誰とも)を発足し、「バリアフルレストラン」という体験型プログラムをスタートしました。「バリアフルレストラン」内では、車いすユーザーが多数派となり、二足で歩いている人が“二足歩行障害者”と見なされます。現実の多数派と少数派が入れ替わる“逆転の世界”の体験を提供しています。レストラン入り口の天井は車いすユーザーに合わせた高さに設定しているので、“二足歩行者”は腰をかがめないと頭をぶつけてしまいます。テーブルにいすが配置されていないなど、店内のすべてが車いすユーザーに最適化された世界となっているんです。

 

二宮清純: 障害のある人たちが普段不便に感じていることを、障害のない人が逆の立場になって知るということですね。

高木: はい。私たちは“逆転の世界”を経験していただくことによって、「障害は社会がつくる」ということを知ってもらいたい。多数派にとっての当たり前を前提とした社会の仕組みが、少数派には“障害”となっている。それを理解していただくために、実際に体験できるものをつくってみよう、と「バリアフルレストラン」を始めたんです。

 

伊藤: “逆転の世界”を体験した人に何を気付いていただけるかが重要なんですね。

高木: 当たり前のように感じていたことが、実は当たり前ではなかったと知るんです。少数派に立つことで感じる不便さがある。「バリアフルレストラン」の仕掛けは“世の中は多数派と少数派で分けられ、多数派を基準につくられているものが多いことに気が付きませんか?”という問いかけなんです。共生社会のありかたや考え方を言葉でお伝えしても、なかなか伝わらないことがあります。“車いすに乗っている人は特別。自分とは関係ない”と感じてしまう方も中にはいるはずです。“どうやったら自分ゴトにしてもらえるだろうか”と考えた時、やはり実際に体験していただくことが一番だと思ったんです。

 

 厳しい意見も歓迎

 

二宮: 昨年2月のテストイベントの様子を映像で観ました。店員がバックルームで「“二足歩行”の人が来ると売り上げが落ちる」と話していましたね。あれはどういう意味ですか?

高木: あれは演出です。あそこまで露骨ではないかもしれませんが、「車いすユーザーがいると他のお客様が入りにくい」と言われた実体験を、少しデフォルメして伝えさせていただきました。

 

伊藤: ショッキングな伝え方のほうが、かえって考えるきっかけになるかもしれませんね。その場だけで終わらず、ずっと胸に残るような効果があれば尚更です。

高木: そう感じていただければ大成功です。この演出はすごく効果があったと思います。官公庁や企業約100団体、約150名の方に参加していただきましたし、多くの反響を呼びました。

 

二宮: 誰もがそこに行って体験できればいいですね。「バリアフルレストラン」は常設されていないんですか?

高木: はい。残念ながら、まだ常設でありません。昨年2月のテストイベントは東京大学の教室をお借りして3日間やりました。今年1月には「共生社会ホストタウンサミットin多摩川」というイベントで、二子玉川の商業施設に1日だけ特設で建てさせていただきました。

 

伊藤: イベントを実施したことにより、批判の声がきっとありましたよね?

高木: 先ほどお話した演出の部分をイベントに参加せずにニュース記事だけを見て、「車いすユーザーが体験したことの仕返しをしているのか?」という厳しい意見もいただきました。でもご意見をいただいてナンボだと思っています。すべては考えてもらうきっかけになればいいんです。私たちの活動は“正解を伝えよう”という意図で行っているのではありません。“何が正しいのか”“今後どうしていくべきか”を少しでも考える人を増やしたい。話題にしていただくことが目的ですから、様々なご意見はこれからも歓迎です。

 

(後編につづく)

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高木友子(たかぎ・ともこ)プロフィール>

公益財団法人日本ケアフィット共育機構理事兼事務局長。神奈川県出身。日本大学卒業後、株式会社中村屋に入社。2003年に前身のNPO法人日本ケアフィットサービス協会に入職、2014年4月にNPOから公益財団に事業を継承し、現職に至る。サービス介助士導入企業1000社への普及活動を通じて企業や自治体のバリアフリー・ユニバーサル化の推進を促している。自身が子育て中でもあり、多様な人が活躍できる社内の組織づくりも手掛ける。趣味は食事、スポーツ観戦。

 

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