“燃える闘魂”アントニオ猪木のライバルといえば、“インドの狂虎”タイガー・ジェット・シンが真っ先に頭に思い浮かぶ。

 

 

 1973年5月、猪木が社長を務める新日本プロレスのリングに初登場。以来、トレードマークのサーベルを凶器にして乱暴狼藉の限りを尽くした。

 

 シンの凶暴性を世に知らしめたのは、同年11月に引き起こした猪木へのストリートファイト事件。新宿伊勢丹前の路上で猪木夫妻(当時の夫人は女優の倍賞美津子)を待ち伏せし、襲いかかったのだ。

 

 事件の真相やいかに。プロレスの裏事情に詳しい元週刊ゴング編集長・小佐野景浩から話を聞いた。

 

「一緒に襲ったビル・ホワイトの証言によると“おそらく手引きをした奴はいるはずだ”と。つまり、猪木のスケジュールをシンに教えた人間がいるということなんですね」

 

 今のようにGPS付きのケータイがあるわけではなく、偶然出くわした、というのはありえない話だ。

 

 しかし、シンにとって悪党は、あくまでも表の顔。自宅のあるカナダのトロントでは名士として通っており、地元には自らの名を冠した学校やストリートもあるそうだ。

 

 さる2月25日には、東日本大震災から10年目の今年、被災地の児童に寄付金を送るなどの支援活動が評価され、日本政府から表彰状を授与された。

 

 シンのコメント。

「日本に行ってから49年ほど。地元のようなところだし、家族のように感じる人たちが大勢いる。(大震災で)苦しんだ人たちが少しでも平穏や幸せを感じてくれるように、できることをやっている」

 

 被災地への支援活動といえば、発災以来、猪木も熱心に取り組んでいる。

 

 2015年5月には全農みやぎと組み「闘魂米育成プロジェクト」をスタートさせた。被災した農業者への支援を目的としたもので話題になった。

 

 その猪木、表舞台から姿を消して久しい。12年間にわたって続けた参議院議員も19年7月に引退した。

 

 この1月には腰の治療のため入院すると伝えられたが、続報がなかったため、「症状が悪化しているのではないか……」とのウワサが広まった。

 

 それというのも、19年秋には「心アミロイドーシス」という難病を発症していたからである。

 

 どんな病気なのか。<原因となる異常なタンパク質が、心臓、肺、肝臓、脾臓、胃・腸、腎臓などの臓器に沈着して、いろいろな臓器の機能が低下し発病する病気のこと>(慶應義塾大学病院医療・健康情報サイト)。症状が進行すると心不全に至るケースもあるという。

 

 猪木は大丈夫か。ファンの声に応えるかたちで3月1日、自らツイッターを更新し、<元気ですかー!今日も一日リハビリを頑張りました。アントニオ猪木最強の敵と闘っています。早く元気を取り戻して皆さんにメッセージを送りたいと思います。元気ですかー!と言えるように、頑張っていきます。ありがとー!>とつづった。この人には不死身であって欲しい。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2021年3月28日号に掲載されたものです>

 


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