サッカーのオールドファンにとって背番号「13」といえば“爆撃機”の異名をとった西ドイツ(当時)のFWゲルト・ミュラーだ。1970年のメキシコW杯では、10得点を記録し、大会の得点王に輝いた。

 

 

 また、2度目の優勝を果たした74年西ドイツW杯では、あの天才MFヨハン・クライフを擁するオランダとの決勝戦で決勝点を決めるなど、4得点3アシストと活躍した。

 

 このミュラー、決して器用な選手ではなかった。足元のテクニックに優れていたという印象も薄い。

 

 しかし、狙った獲物は逃さなかった。泥臭くても確実に獲物を仕留める本物のハンターだった。

 

 ドイツ・ブンデスリーガのケルン時代にミュラーと対戦経験のある奥寺康彦は語る。

 

「ミュラーは、他の選手とはゴールに対する感覚が全く違った。ペナルティーエリアに入るタイミングも、こちらは予測できないものだった。シュートかと思えばキープし、キープかと思えば振り向きざまシュート。あれほどペナルティーエリアの中で怖いと思った選手はいなかった」

 

 ミュラーのようなストライカーになれ! チームの方針で、かつて「13」を背負ったのが鹿島アントラーズのFW柳沢敦である。

 

 ミュラーのような泥臭いタイプではなかったが、ゴール前では万能ぶりを発揮し、97年、高卒2年目でJリーグの新人王に輝いた。日本代表でも活躍し、02年日韓大会、06年ドイツ大会と2大会連続でW杯に出場した。また現在は浦和レッズで活躍するFW興梠慎三も、鹿島では「13」を付けていた。

 

 育成に定評のある鹿島で、今季から「13」を背負うのが高卒2年目のMF荒木遼太郎だ。開幕戦の清水エスパルス戦、2戦目の湘南ベルマーレ戦、3戦目のサンフレッチェ広島戦と、3試合連続でゴールを決めた。ちなみに10代の選手が開幕から3試合連続で得点を記録したのは1994年のFW城彰二(当時ジェフユナイテッド市原)以来27年ぶりだ。

 

 荒木は身長170センチ、体重60キロながら視野が広く、状況判断、展開力に優れている。

 

 それを見せつけたのがホームでの広島戦だ。0対1で迎えた後半24分、ペナルティーエリア手前でボールを受けた19歳はダイレクトではたくとスルスルとエリア内に進入した。ここで再びボールを受けるや、鋭い反転で相手DFを振り切り、右足で冷静にゴールを決めたのだ。

 

「ゴールはイメージ通り。ニアに打ったら相手GKに弾かれると思い、ファーサイドに打ったんです」

 

 小憎らしいばかりのコメントに、豊かな将来性が垣間見えた。

 

 開幕前、荒木は今季の目標を「5ゴール」に定めていたが、これは上方修正が必要だろう。

 

 この荒木に対し、アントニオ・ザーゴ監督は「アントラーズのレギュラーの先にある日本代表を目指して欲しい」と発破をかける。

 

 鹿島の若き「13」は相手にとっては不吉な選手かもしれない。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2021年4月11日号に掲載されたものです>

 


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