今季のNFLシーズンも大詰めを迎え、あとは各カンファレンスのタイトルゲームとスーパーボウルを残すだけとなった。
 歴史に残る快進撃を続ける大本命ペイトリオッツ、現役最高のRBラデイニアン・トムリンソンを擁するチャージャーズ、英雄ブレッド・ファーブが絶好調のパッカーズ、そして無印からの快進撃を続けるジャイアンツ……ここまで勝ち進んできたチームにはそれぞれ見所が盛りだくさんである。
 近年にないドラマチックなシーズンとなった今季――。最後の関門を勝ち抜き、夢舞台スーパーボウルに辿り着くのはいったいどのチームなのか。
(写真:スーパーボウルに向けて駆け抜けるのはどのチームか)
(写真:この時期のアメリカは国中がNFLプレーオフに熱狂する)

■1月20日 AFCタイトル戦 
 ニューイングランド・ペイトリオッツ(17戦17勝)
  対
 サンディエゴ・チャージャーズ(13勝5敗)

 今シーズンのペイトリオッツに関しては、先週のコラムでも「歴史に残るスーパーチーム候補」として取り上げた。
 1962年のドルフィンズ以来のシーズン全勝(16戦16勝)、QBトム・ブレイディがシーズン最多タッチダウンパス記録を更新、WRランディ・モスもレシーバーとしての最多タッチダウン記録を達成……。
 この1年で彼らが成し遂げた驚異的レコードを挙げていったらキリがない。当然のようにスーパーボウル制覇の大本命である。
 先週のプレーオフ2回戦では、最も相性が悪いと思われたジャグワーズに苦しみながらも競り勝ち、改めて底力を証明してみせた。「シーズン全勝してもプレーオフで勝ち続けねば意味がない」と気を引き締める最高軍団に、依然として死角はまったく見当たらない。

 そのペイトリオッツに挑むのは、昨季王者コルツを接戦の末に下して来たチャージャーズ。実力派の若手QBフィリップ・リバース、最強RBトムリンソンを中心に、ここ数年はプレーオフの常連となった強豪である。
 ただここに来ての不安材料は、肝心のリバースとトムリンソンが現在故障に見舞われてしまっていること。今週末の決戦に間に合うかどうかまだ不確定で、強行出場しても本来の力が出せるかは微妙なところだろう。この満身創痍の中で先週にコルツを破ったのは確かに見事だった。だがその試合で持てる力をすべて使い果たしてしまった感は否めない。
 状況的に、この試合を形作るすべての要素は圧倒的にペイトリオッツ有利を物語る。今の時期のゲームとしては残念だが、AFCタイトル戦は一方的な試合となることが濃厚だ。ペイトリオッツは余裕の戦いで通算18連勝を飾り、語り継がれる「パーフェクトチーム」の座にまた一歩近づくことだろう。見せ場を作るのが難しそうなチャージャーズ側では、ぜひともトムリンソンには出場して、せめてもう一度あの見事な走りを見せてもらいたいところだ。

■1月20日 NFCタイトル戦 
 グリーンベイ・パッカーズ(14勝3敗)
  対
 ニューヨーク・ジャイアンツ(12勝6敗)

(写真:ジャイアンツの快進撃は最大のサプライズだった。ボールをキャッチしているのはWRアマニ・トゥーマー)

 パッカーズは38歳になった国民的英雄QBファーブの活躍でここまで勝ち進み、同時に全米からのサポートを勝ち得て来た。
 キャリア17年目のファーブは、すでに過去2度スーパーボウルに進んだ「ミスター・パッカーズ」。この衰えを知らぬQBがもう一度大舞台に戻ることを望んでいるファンは多い。本来であれば、NFCタイトル戦でのパッカーズはセンチメンタル・フェイバリットとしてファンから断然の支持を得るはずだった。
 しかしここに来て、その風向きが変わり始めている。ワイルドカードでようやくプレーオフに進んだジャイアンツが、1回戦、2回戦と敵地で接戦を続けざまに制してここまで勝ち上がって来た。先週には第1シードのカウボーイズを大番狂わせで撃破。1990年にプレーオフが現在の方式となって以来、初めて第5シードが第1シードのチームを破ったのだ。
 ニューヨークを本拠地としてはいても、今季のジャイアンツは決してスーパースターぞろいのチームではない。QBイーライ・マニングはこれまで偉大な兄ペイトンの影に隠れて来たし、長く大黒柱だったRBティキ・バーバーは昨季で引退してしまった。DEマイケル・ストレイハンは衰えが目立つし、攻撃の要だったTEジェレミー・ショッキーも故障で今季はもう試合には出られない。
 NFLのオールスターであるプロボウルにジャイアンツから選出されたのはわずか1人だけ。しかしそんなチームが、12人のプロボウラーを擁する強豪カウボーイズを倒したのだ。チーム一丸となった「ミラクルラン」。こんなストーリーを、アメリカ人はこよなく愛する。特に地元ニューヨークの人々は、当然のことながらジャイアンツの快進撃に熱狂しているのである。

(写真:QBイーライ・マニング(中央)とWRプラキシコ・バレス(右)のホットラインがジャイアンツの鍵を握る)
 今週末、ジャイアンツは次なる難敵パッカーズに挑む――。相手は格上の第2シード、慣れていないと戦い辛い極寒の地・グリーンベイでのアウェー戦、相手のQBは伝説的英雄、しかも今シーズン中の対戦では20点差で惨敗を喫してもいる。だがこれほど絶対不利の状況下でも、またジャイアンツが不可能を可能にしてくれるのではないかと、この国の人々は半ば本気で信じ始めている。
 今プレーオフに限って言えば、「アメリカズチーム」はもはやカウボーイズやパッカーズだけではない。国民の後押しを受けたジャイアンツが、再びの番狂わせでスーパーボウルに進み、究極の強豪ペイトリオッツに挑む。そんなハリウッド映画のようなストーリーの実現を、ニューヨーカーは心待ちにしている。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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