RHR(Record Holding Republic)という世界中の記録を集めた本の08年度版に掲載される日本人がいる。もちろん数人はいるであろうと思われるが、その中に私の知人が掲載されるというので早速、本人に聞いてみた。その記録はなんと「最長遠泳記録」で「湖で82キロ」を泳いだというものだ。「82キロ」って泳げるものなのか?
(写真:世界記録の松崎選手と、サポートメンバー達)
 私も長距離系のスポーツをやっているので、「どのくらい泳げるのですか?」と聞かれる事が多々ある。泳げる人間にとっての観念から言うと「どのくらい」というのはタイムのことで、距離のことではない。あらためて距離といわれてもよく分からないのが正直なところ。でも、「何十キロ」というのは感覚が分からない。泳力よりも、体力、いや精神力が持つとは思えない。それを82キロとは〜走るのも大変な距離を泳ぐなんてどういう身体なのだ?

 その人の名は松崎裕子さん(東京出身、フロリダ州オーランド在住)。マラソンスイミングのプロとして世界的に活躍している唯一の日本人だ。彼女は昨年10月、フロリダの湖でウエットスーツなしの世界最長遠泳に挑戦し、82キロを泳いで見事新記録を達成した。

(写真:「International Marathon swimming Hall of Fame certificate」(世界記録証明書))
 10月12日の夜6時から、オーランドのレークケイン(通称ラッキーレイク)で始ったマラソンスイム。泳ぎ終わったのはなんと13日の23時55分、トータルタイムは29時間55分だった。これまでの湖の最長世界記録が80.2キロなので、彼女の記録はもちろん世界新記録。それもウエットを着用していない上に淡水湖なので、浮力が弱い中での快挙だ。さすがに途中で3度ほど昼寝を入れたそうだが、途中で何度も睡魔に襲われて幻覚症状に襲われる始末。まあ、体力よりもそんな状況で泳ぎ続けた精神的なタフさに敬服するばかり。人間というのは鍛えた身体と、やろうとする意志があれば凄いことが出来るものだ。

(写真:82キロの世界最長遠泳記録を達成した松崎裕子さん)
 そんな彼女以上に驚くのが、地元の応援者達。今回の挑戦も「YUKOは妙なことをするけど、もしかしたらその妙なことは面白いのかも」と地元のスイミングクラブが企画してくれたそうだ。そしてその応援方法として、「50人×2キロ=100キロリレー」を同時に開催しYUKOを元気づけようとしたとか。そもそも、こんな事をやろうと企画するだけでも凄いのだが、その応援スタイルも素敵だ。日本人にはちょっと出てこない発想だろう。もっとも最初は100人で100キロリレー(1人1キロ)の予定だったそうだが、人数が集まらなかったらしく・・・このあたりはご愛敬!? 特に大きな組織でもないのに、こんな事を発想し、運営してしまう彼らのバイタリティーには感心するばかり。アベレージな人間は少ないのかもしれないが、面白い人間がこの国に育つのが分かるような気がした。

 で、彼女だが、終わった翌日は「あっちこっち筋肉痛で疲れました」というものの、その翌週末にはバミューダーで10キロレースに出場。スーパーウーマンはどこまでもスーパーなのでした。

追記: 今年の8月に霞ヶ浦で世界記録に再チャレンジする計画もあるとか。
 我々もリレーで応援するしかない!?


※参考資料
★RHR (Record Holding Republic)サイト
★記録会の模様VTR

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール
スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦している。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。

白戸太朗オフィシャルサイト
◎バックナンバーはこちらから