昨年2月に死去した野村克也氏の追悼試合が3月28日、東京ヤクルトの本拠地・神宮球場で行われた。

 

 

<この原稿は2021年4月19日号『週刊大衆』に掲載されたものです>

 

 相手の阪神も、ノムさんが3年間監督を務めたチーム。両軍監督以下、コーチ、選手全員がノムさんがつけていた「73番」を背負って試合に臨んだ。

 

 試合は阪神が8対2で勝ち、開幕3連勝。敗れたヤクルトは逆に3連敗だ。

 

 ヤクルトの元気のなさが気になる。ノムさんも草葉の陰で心配しているのではないか。

 

 ところでノムさんといえば「知将」のイメージが強いが、私の印象では、このくらい負けず嫌いな人はいなかった。

 

「くそったれ!」

 

 人のいないところでは、よくこう吐き捨てていた。

 

 これをチームスローガンにしたいと願い出たことがある。

 

 1995年、長嶋巨人は大補強を敢行した。FAでヤクルトから広沢克己、広島から川口和久を獲得し、まだ足りないとばかりにヤクルトを退団したジャック・ハウエルとも契約した。

 

 主砲を2人もとられればノムさんじゃなくても「くそったれ!」という気分になるだろう。

 

 しかし、それをスローガンに掲げるとなると話は別だ。案の定、連盟から「品がない」とクレームがつき、「我武者羅野球」に変更されたのだった。

 

 納得のいかないノムさん、「このスローガンはオレの本心ではない」と毒付き、ライバルであるミスターに対しては「勘とひらめきだけのカンピューター野球に、オレの理詰めのID野球が負けてたまるか!」と敢えて報道陣のいる前で挑発した。自ずと選手たちの士気も高まる。

 

 この年、野村ヤクルトは大方の予想を覆してリーグ優勝、日本一を達成するのである。

 

 言うまでもなく現ヤクルト監督の高津臣吾は、ノムさんの教え子のひとりである。95年には28セーブをあげ、リーグ優勝、日本一に貢献した。

 

 ここはひとつ、師匠の“くそったれ精神”を思い出してもらいたい。今なら、まだ十分巻き返せる。

 


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