Jリーグを手本にした運営を行ってきたBリーグが、開幕10年目の2026年に独自色を打ち出す。競技成績のみによる昇降格制度を廃止し、エキスパンション型リーグへの移行を図るというのだ。新B1クラブに求められるライセンス基準は①平均入場者数4000人以上②売上高12億円③5000人以上のアリーナ――。これをリーグ全体の成長戦略と位置付けている。

 

 島田慎二チェアマンによると、昇降格制度はチームの強化を促す半面、「ビジネスオペレーションに投資が回らなくなる」副作用も伴う。「ただ落ちたくない、勝たなければならないという状況では、投資が選手などに限られてしまう。なかなかフロントスタッフや地域とのつながりを支えるスタッフに資金が回らない。そこで急がば回れですよ。経営力が高まれば、逆に選手たちにも高給が支払える。勝った負けたも大事だけれど、そこにばかりこだわっているとクラブは大きくなれないし、社会的にもインパクトを持ち得ないと考えたんです」

 

 日本のスポーツ界には未だに“強化至上主義”的な考えが根強く残る。勝てば人気が出る、客も入る、懐も潤う。勝利こそがあらゆる問題を解決する万能薬だとの思い込みが根底にはある。

 

 現場が勝利を追求するのは至極当然のことだ。勝利こそがクラブの価値を高める最良の商品であることも否定しない。しかし、そこには危うさも潜む。なでしこジャパンは11年のW杯で優勝したが、女子リーグの人気は一過性に終わった。08年北京五輪で初めてメダル(銀)をとったフェンシングの太田雄貴は現役時代、「五輪でメダルをとったら選手も競技もメジャーになれる」とずっと言い聞かされてきたという。「しかし、それは幻想でした。五輪後も競技人口はそれほど増えなかった…」

 

 Bリーグに話を戻そう。降格をなくすことでクラブは長期的な視野で経営を行うことができる。スポンサーや投資する側にもステークホルダーの理解を得やすいというメリットがある。要するに地に足のついた経営が可能になるのだ。

 

 一方で心配事もある。降格というペナルティがなくなったことで努力を怠るクラブが出てくることはないのか。「ちゃんとペナルティを考えています」と島田。「経営面で3年間、ライセンスの下限を下回り続けた場合は3部に落とすことも検討しています」。経営規律なくして成長なし。3年後にはライセンス審査がスタートし、Bリーグはいよいよ拡大均衡の局面に入る。

 

<この原稿は21年4月21日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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