政府はマスターズを日本人、いやアジア人として初めて制した松山英樹に「内閣総理大臣顕彰」を授与することを決定した。ご同慶の至りである。ゴルフ界では米女子ツアーで賞金女王に輝いた岡本綾子に続き2人目だ。

 

 慶事には違いないのだが、“肩すかし”をくらった感が否めないのは、なぜだろう。直截に言えば「あれっ、国民栄誉賞じゃないの?」という違和感だ。

 

 快挙から4日後の本紙記事を引く。<マスターズを制した歴史的偉業を受けて、スポーツ界に近い政界関係者からは、松山を国民栄誉賞の候補に入れるべきだという声が上がっている。関係者は「国民的な快挙を成し遂げたのだから、その価値は十分ある」と話している>(4月16日付け)

 

 東日本大震災から10年目となる節目の今年、松山のマスターズ制覇をなでしこジャパンの女子W杯優勝に重ねた向きも多かろう。「広く国民に敬愛され、社会に明るい希望を与えることに顕著な業績があったもの」。なでしこに国民栄誉賞が授与された際、この規程がクローズアップされた。これは松山にも当てはまるのではないか。コロナ下の快挙も「社会に明るい希望を与える」に十分だった。

 

 誤解なきよう申し上げるが、国民栄誉賞と内閣総理大臣顕彰、どちらが上で、どちらが下か。そんなことを問うているのではない。また後者は授与の対象について「国家、社会に貢献し顕著な功績のあったもの」と明記しており、前者とは明らかに賞の性格が異なる。

 

 そうしたことを踏まえつつ、それでもなお違和感が残るのは、2000年シドニー五輪・パラリンピック後、2つの賞の“振り分け”の経緯を見てきたからだ。国民栄誉賞に輝いたのは女子マラソンの金メダリスト高橋尚子。女子スポーツ選手としては栄えある受賞第1号となった。彼女の受賞は、いわば“満場一致”だったが、では3度目の挑戦で初めて金メダルを胸に飾った女子柔道の田村(当時)亮子、そしてパラ1大会で金メダルを六つも獲得した女子競泳の成田真由美については、どう処遇すべきか。

 

 高橋の国民栄誉賞授与内定からしばらくして、2人への内閣総理大臣顕彰授与が決まる。ある政府高官は「一度に3人も国民栄誉賞を授与することなどできなかった」と語った。二つの賞の優劣が可視化された瞬間だった。先に「賞の性格が異なる」と述べたが、実際のところは時の政権の裁量次第なのだ。いずれにしてもグリーンジャケットの晴れ姿に勝るものはあるまい。

 

<この原稿は21年4月28日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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