坂口剛(日本車いすスポーツ協会代表理事)<後編>「子どもたちの夢を大人が後押し」

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二宮清純: 2017年に立ち上げた日本車いすスポーツ協会では、パラスポーツの体験会やイベントはもちろん、車いすを使った遊びも推奨しているそうですね。

坂口剛: はい。“車いすを使っていれば何でもありにしよう”という考え方から始めました。「だるまさんが転んだ」、「鬼ごっこ」は車いすに乗っていても遊ぶことができますよね。車いすは道具、スケートボードなどと同じスポーツ用具のひとつとして捉えてほしいんです。障がいのある子どもたちにも、遊び場や遊び方を提供し、スポーツを始めるきっかけにしてもらえればと考えています。

 

伊藤数子: 子どもたちに、いろいろなことにチャレンジするきっかけをつくりたいということですね。

坂口: はい。私は子どもには前例がないことにも臆することなくチャレンジしてもらいたい。例えば、ウチの息子はアメリカの大学にスポーツと勉強両面での留学を考えています。通常、障がいのある人が海外の大学に留学するケースは主に2つに分けられる。日本代表に選ばれるなど競技で実績を残し、選手としての実力を買われて行く。もうひとつは勉強の成績のみで海外の大学に進学すること。中には「前例がないから」と諦めてしまう親御さんもいる。私たちが、これまで誰もやってこなかったことにチャレンジし、発信していくことが大事だと思っています。

 

二宮: 前例のないことにチャレンジすることで、子どもたちの成長にも繋がりますね

坂口: 私は“個の力をいかに輝かせられるか”をいつも考えています。大人たちの都合で、子どもたちの可能性を潰したくないんです。

 

伊藤: 以前、坂口さんは「子どもはもともと大きな夢を持っている」とおっしゃっていました。

坂口: その思いは今も変わりません。夢にチャレンジし、その過程で壁にぶつかって諦めるのならわかります。しかし子どもたちの夢を、挑戦もしないうちに“ウチの子は無理だから”と親が止めてしまうのは良くない。身近にいる親の固定観念を変えていくことが非常に大事だと感じています。

 

二宮: 2011年に施行されたスポーツ基本法には、<スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むことは、全ての人々の権利>と記されています。以前のスポーツ振興法と比べたら進歩したと思っているんですけど、一方で誰もがスポーツを楽しめているかというと、そうではない。障がいのある人は、競技用の車いすを購入するなど、スポーツをするためにお金がかかる。障がいのない人に比べ、スポーツをするハードルが高いと感じます。誰もがスポーツをする権利がある――。そのためには、多少の助成、環境整備が必要ではないでしょうか?

坂口: その通りだと思います。障がいのある子どもたちの中でもスポーツができる子はひとにぎり。8割ぐらいはスポーツに出会うことなく大人になってしまう。スポーツ基本法ができたことで、地域の公立の体育館、スポーツジムを障がいのある人が利用できるようになってきました。大人にとっては環境が良くなっていると感じます。しかし18歳以下の障がいのある人については利用禁止や利用を制限されるところが非常に多い。さらには障がいのある子どもがスポーツをする上での課題として、地域の格差もかなりあります。

 

「地域が子どもを育てる」

 

二宮: 確かに地域によっては、人口や環境、周囲の方々の理解度は異なります。指導者や協力者の数には、相当差がある気がしますね。

坂口: おっしゃるように、地域によっては、障がいのある子どもたちの人数や状況も違います。私は障がいのある子どもを育てている親御さんから相談を受けると、環境のいい地域への引っ越しを提案することもあります。しかし私は“地域が子どもたちを育てていく”という考えを社会が持つことのほうが必要だと感じます。

 

伊藤: 東京パラリンピックの開催が決まったことにより、パラスポーツに対する認知度が高まりました。坂口さんの環境は変わりましたか?

坂口: パラスポーツの魅力を発信してくれる人や、体験会などを実施してくれる団体や企業は増えました。それは大変ありがたいことです。しかし、パラリンピックに向けてエリートアスリートの強化を重視するあまり、ジュニアの大会が減っているなど、子どもたちの活動場所が減ってきているという側面もあります。

 

二宮: 私は競技力向上の前には底辺拡大、普及が大事だと考えます。しかし人によっては強化をメインにしたがる人もいます。その方が目立ちますからね。エリートアスリートの強化だけに目を向けてしまうと競技の普及がおろそかになりがちです。危険な兆候だと思いますね。

坂口: トップ選手が活躍し、競技が盛り上がることはありがたいです。でもその選手たちに憧れて競技のトップを目指す子どもたちからスポーツを楽しむ場所を奪っていては意味がない。私たちは障がいのある子どもたちを支える環境づくりに、これからもっと力を入れていきたいと思っています。

 

伊藤: 今後に向けては、どのような活動を?

坂口: 東京パラリンピックが終わった後、これまで支援してくれていた企業が離れていくなど各競技団体はますます厳しい環境になっていくと思います。それを打破するためには、もっとパラスポーツの魅力や価値を発信していく必要がある。私はテクノロジーや道具をつくっている企業と情報を共有し、交流を深めていくことが重要になってくると考えます。

 

二宮: パラスポーツ普及のためには、障がいのある子どもたちの環境整備も重要になりますね。

坂口: “遊びたい”“スポーツをしたい”と願う障がいのある子どもたちの力になりたい。障がいの有無に関わらず、子どもたちに遊び場やスポーツを楽しむ場を提供し、様々なことに興味を持ってもらう。そこから新たな夢が生まれることもあるでしょうし、遊びやスポーツを通じて身に付く能力もあるはずです。子どもたちの夢や可能性を広げられるよう、これからも頑張っていきます!

 

(おわり)

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坂口剛(さかぐち・つよし)プロフィール>

一般社団法人日本車いすスポーツ協会代表理事。1975年、福岡県出身。2006年、長男が交通事故に遭い、車いす生活になったことを機に、車いす利用者に環境のいい土地に移り住む。2009年に浦安ジュニア車いすテニスクラブ(現・車いすスポーツクラブ ウラテク)を創設。パラスポーツ参加を推進すべく、さまざまな活動に関わる。2017年には日本車いすスポーツ協会を立ち上げた。好きなスポーツは、かつてサッカーとゴルフだったが、今はテニス。

 

>>日本車いすスポーツ協会HP

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NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

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