今季のトップリーグ(TL)にはオーストラリア代表105キャップのマイケル・フーパー(トヨタ自動車)、スコットランド代表76キャップのグレイグ・レイドロー(NTTコミュニケーションズ)、ニュージーランド代表84キャップのベン・スミス(神戸製鋼)など世界的なビッグネームが多数参戦している。

 

 

 その中でも、ひと際強い輝きを放っているのがサントリーに入団したオールブラックスで88キャップのボーデン・バレットだ。

 

 現在29歳。ワールドラグビーの年間最優秀選手賞を2度(16年、17年)も受賞している現役バリバリのニュージーランド代表だ。

 

 本人は5人兄弟の次男。弟2人(スコット、ジョーディー)とは2019年W杯日本大会に揃って出場した。

 

 バレットのプレーは自ら「予測できないプレー」と言うように、創造性に富んでいる。リーグ戦全7試合では断トツの128得点を記録した

 

 さる4月11日に行われたリーグ最終節、NTTコミュニケーションズ戦は、休養のためスタメンから外れたが、途中出場ながらハットトリックを達成した。

 

 後半22分、スタンドオフ田村煕に代わり、ピッチに立つと、その4分後にいきなりマジックを披露した。

 

 自陣中央でボールをもらうと、スルリスルリと抜け出し、誰にも触れられることなく約60メートルを走り切った。

 

 2本目のトライは35分。敵陣に攻め込み、中央でパスを受けると、立ちはだかる相手をかわし、ゴールポスト左に悠々とボールを置いた。

 

 ショーの仕上げはロスタイム。敵陣深く右サイドでボールを持つと一気に加速し、突破を阻むディフェンスをいとも簡単に振り切ってみせた。

 

 まるでバレットには先が見通せる千里眼が備わっているかのようだ。この日は25得点をあげ、94対31の大勝に貢献した。

 

 試合後、ミルトン・ヘイグ監督はバレットを手放しで褒め称えた。

「約20分であげた3トライは、彼のワールドクラスの実力をしっかり示してくれたと感じています」

 

 その存在感はチームメートをも鼓舞してやまない。キャプテンの中村亮土は「ボーディ(バレット)はグラウンドにいるだけで頼もしく感じます」と語り、こう続けた。

 

「ゲームコントロールとパス、ラン、キック全てのスキルにおいてハイレベルで、チームを前に動かしてくれる。準備期間があまりない中でも、初戦からチームにフィットし、毎回ベストパフォーマンスを出してくれる選手。本当に世界のトップレベルだと感じます」

 

 受け答えもソツがない。

「トライはFWが前に出て、スクラムハーフがいいパスをくれたから前へ走れた。仲間と観客のみなさんのサポートに感謝します」

 

 サントリーとの契約は今季限り。この号が出る頃には、TLのプレーオフトーナメント初戦(2回戦)の結果が出ている。ノックアウト方式のトーナメントに入り、いよいよ本領を発揮しそうな“オールブラックスの至宝”である。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2021年5月9・16日合併号に掲載されたものです>

 


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