(写真:今年1月に開幕したDリーグ。初年度は9チームがチャンピオンを目指し、しのぎを削っている ©D.LEAGUE 20-21)

「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長、二宮清純との語らいを通し、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 

 今回のゲストは、日本発のプロダンスリーグ「第一生命 D.LEAGUE」(Dリーグ)を立ち上げた神田勘太朗COOです。プロダンサー、演出家として活動しつつ、ダンス大会やイベントをプロデュースするなどダンスビジネスに携わってきました。一般社団法人日本国際ダンス連盟(FIDA JAPAN)を設立し会長を務める神田氏に、Dリーグ、そしてダンスビジネスの可能性について聞きました。

 

※取材は4月下旬にオンラインインタビューで実施

 

二宮清純: 今年1月、日本発のプロダンスリーグであるDリーグが開幕しました。

神田勘太朗: 準備には約1年半の歳月をかけました。私は15年以上、ダンスビジネスに関わってきましたが、プロという線引きが難しい業界だった。それでも野球、サッカーのようにプロリーグ誕生を求める声はダンス界の中にありました。今回はいろいろな企業や関係者のサポートを受け、このタイミングでスタートすることができたんです。

 

今矢賢一: 現在、チーム数は9。今後、増やしていく予定はあるのでしょうか?

神田: 最大12チームまでと決めています。参加を希望するチームが増えたとしても、今のところ2部リーグを設ける予定はありません。昇降格なしということに関しては、プロ野球と同じような仕組みになっています。

 

二宮: ダンスは採点競技です。大会でのジャッジはプロダンサーが担当するのでしょうか?

神田: ジャッジを担当するのは、テクニックを中心としたダンス界の歴史やメソッドについての知見を持つ方が4名と、ダンスに精通しながらエンターテインメント業界に携わる方が4名。得点の8割を占めているのが、各ジャッジによる10点満点の採点です。残りの2割をオフィシャルアプリの有料会員の投票によるオーディエンスポイントによって決めます。この試みはスポーツ界では非常に珍しいケース。今や民意をSNSで取り込んでいく時代になってきています。人気もプロとしてのバロメーターと考え、ジャッジにオーディエンスポイントを採り入れることにしました。

 

二宮: 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、多くのプロスポーツ興行が苦しんでいます。特に無観客を含めた観客数の制限により、チケット収入でリーグやチームがダメージを受けています。

神田: Dリーグはホーム&アウェイを設けておらず、大会における各会場の運営はリーグが担当しています。私たちは“配信を中心に若い人たちからDリーグの認知を広げていこう”と早々に無観客開催に切り替えました。昨年からステイホームが求められる時代となり、特に若い人たちはエンターテインメントやスポーツコンテンツを配信で見ることに慣れている。最近の流れにちょうどハマっていると思っています。

 

 配信ビジネスが基軸に

 

二宮: リーグとしての収入の柱は?

神田: 今のところはスポンサー収入ですね。まずはDリーグが認知され、各チームが人気になっていくことで、グッズなどを含めた売り上げ向上につながっていくと考えています。そしてDリーグが挑戦していることのひとつが配信権です。これまではダンスは他人の楽曲を使用して踊るのが当たり前でした。しかし、それでは著作権の関係で、ダンス映像をパッケージ化して販売することができない。そのため私たちは各チームにオリジナルの楽曲をつくってもらうことをお願いしているんです。

 

今矢: 各チームにオリジナル楽曲の制作は必須としているのでしょうか?

神田: 今シーズンは猶予期間として推奨レベルにしていますが、2シーズン目からは義務化していきます。チームそのものが人気になれば、オリジナル楽曲でも十分にファンを魅了できるはずだ、と仮説を立てました。各チームがオリジナル楽曲をつくり、映像を世界中に配信できる。今後、配信ビジネスはダンス界に限らずスポーツビジネスのスタンダードになっていくと思います。たとえ言葉が通じなくても競技の魅力は伝えられる。世界中にファンをつくっていくことがビジネスモデルの基盤になると考えています。

 

二宮: ダンスは国境を越えられるコンテンツ。おっしゃるように潜在的なマーケットは大きいですね。

神田: はい。2012年から義務教育での必修科目にダンスが加わったことで、日本におけるダンス経験者は格段に増え、全国のダンス部、チームも増えました。他の団体競技と比較しても、サッカーが750万人、野球700万人前後と言われていますが、ダンスは約600万人です。今後は高校の部活動からDリーグチームに進む道、プロ野球のドラフト会議のようなものが構想にあります。

 

今矢: 2019年11月には、ダンスの統括団体にあたる日本国際ダンス連盟(FIDA JAPAN)を設立しました。

神田: 2024年開催のパリオリンピックで正式競技種目に入ったブレイキン(ブレイクダンス)は、社交ダンスの国際連盟の中に組み込まれています。ストリートダンスの国際連盟がなかったからです。FIDAは世界の国際競技連盟を勉強し、北米プロバスケットボールリーグのNBAを参考にしています。NBAは独立団体でIOCに加盟していません。それでもプロ選手たちがオリンピックに出場することができる。独立団体としてIOCとも交渉できるような団体組織になれると思っています。

 

今矢: グッズ展開はリーグがマーチャンダイジングの権利を承認するかたちで進めていくのでしょうか?

神田: Dリーグ側としてもチームの収益モデルを考えていかなければいけません。まずは自分のたちの会員を増やすこと。そのベースとなるのは、ダンスレッスンができる下部組織づくり。そこの全国のフランチャイズ化が必須になってくると考えています。チームの人気が全国的に広がっていけば、グッズの売り上げも自ずと伸びていく。ダンスは自分の師匠や憧れの先輩が着ているものを、後輩が真似したり、譲り受けたりする傾向にあります。その意味では各チームのグッズが収益の柱になり得る。Dリーグのブランドでつくったアパレルを、世界中のキッズやファッション好きが身に付けたくなる時代をつくろうと考えています。

 

 ダンスには無限の可能性

 

今矢: アジア進出のポテンシャルも非常に高いと感じます。

神田: そうですね。既に関係者には声を掛け始めています。すぐにアジアの他の国でプロリーグを始めることは難しいかもしれませんが、モータースポーツのF1GPのように各国を回ることは可能だと考えています。

 

(写真:EXILEのSHOKICHI<左>と、三代目JSOUL BROTHERSのELLY<右>はDリーグアンバサダーを務める ©D.LEAGUE 20-21)

二宮: プロ野球、NBA、F1と様々なスポーツの良いところを取り込んでいくと。Dリーグは後発者利益を生かしているわけですね。

神田: はい。Dリーグはいろいろな競技の要素を取り入れています。ゼロからスタートした強みがある。PDCAを繰り返しながら、より良いものをつくっていきたいと考えています。Dリーグが他のプロスポーツと違うところは競技時間の短さです。1チームのショーは2分から2分15秒。今の若い人たちにとっては、YouTubeやSNSなどで短い時間のコンテンツに慣れている。そのライフスタイルに合ったものだと自負しています。

 

今矢: 過去のインタビューで、踊る時間を“ピースタイム”と呼んでいると、おっしゃっていましたね。

神田: アートやスポーツなどに熱中している時間は、争いのことを考えない。それが世界的に増えれば増えるほど、その時間帯はピースだと思うんです。それでピースタイムと名付けました。ダンスをやる環境、見る環境を整えれば、ピースタイムは増えていく。それを自分の活動指針として定めています。

 

二宮: ダンスを通じて世界を平和にする。オリンピズムに通ずるものがありますね。

神田: 今やダンスは若い世代にとっては当たり前のコンテンツとなっています。それがまだ世の中全体には浸透していない。特に日本では“不良がやっているもの”というイメージがある。キッズダンスなどを広めていくことで、それを払拭できるのではないかと考えています。ブレイキンがオリンピック種目になったことも後押しとなるはず。2、3年経てばダンスが、もっと日常的な存在になると思っています。

 

二宮: 若い人たちだけでなく、高齢者にとっても身近なものにする必要があると。

神田: そうですね。エルダー(年長者)向けのダンスも考えています。踊ることによって、運動不足の解消や老化防止にもつなげられるかもしれない。シニアリーグの創設を考えています。いろいろな業界を巻き込んでいきたいですし、そうでなければ世界に進出できない。ダンスは若い人とエルダーをつなぐハブになり得るし、スポーツビジネスとしても無限の可能性を秘めていると思っています。

 

神田勘太朗(かんだ・かんたろう)プロフィール>

1979年12月13日、長崎県生まれ。明治大学法学部卒業後の04年6月、有限会社アノマリー(現・株式会社アノマリー)を設立。ダンサーとして活動しつつ、ダンスイベントをつくり始める。ストリートダンスバトルイベント「DANCE ALIVE HERO’S」を主催し、東京・両国国技館を埋め尽くす日本一のダンスイベントへ成長させた。2019年11月に一般社団法人日本国際ダンス連盟FIDA JAPANを創設し、会長に就任。今年1月にスタートした日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」ではCOOを務める。著書『誰も君のことなんて気にしていない。』(きずな出版)が発売中。

 

>>DリーグHP

>>FIDA JAPAN HP

 

(鼎談構成/杉浦泰介)


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