「Sportful Talks」は、ブルータグ株式会社と株式会社スポーツコミュニケーションズとの共同企画です。多方面からゲストを招き、ブルータグの今矢賢一代表取締役社長、二宮清純との語らいを通し、スポーツの新しい可能性、未来を展望します。

 

 今回のゲストは、男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」の群馬クレインサンダーズの代表取締役社長を務める阿久澤毅氏です。群馬県出身の阿久澤氏は桐生高校時代、“王貞治二世”と呼ばれた超高校級のスラッガーでした。地元の大学に進学し、高校教諭を経て、2020年、クレインサンダーズ社長に就任。プロスポーツの運営という未知の世界に飛び込んだ阿久澤氏に、今後の抱負を聞いた。

 

※取材は5月下旬にオンラインインタビューで実施

 

 高校野球で繋がった縁

 

今矢賢一: B2優勝、B1昇格おめでとうございます! 社長に就任して1年目で、早速結果が出ましたね。

阿久澤毅: ありがとうございます。自分が1年目というよりも、これまで継続して努力してきたチームの悲願を達成できたことが、うれしい。またチームに力を貸してくれてきた群馬県、市町村、スポンサー、ブースターの皆さまと、この喜びを分かち合えたことが何よりも幸せだと感じています。

 

二宮清純: ご無沙汰しております。30年ぶりですかね。阿久澤さんは桐生高校時代に超高校級バッターとして鳴らしました。私は「なぜプロに行かなかったのか?」という記事を書かせていただきました。

阿久澤: その記事は群馬で結構話題になりました。自分が思っていた以上に反響があり、なんだか実物よりもすごくなってしまった感じはありますが、取り上げていただいたことは、本当にありがたかったです。

 

二宮: 群馬県内の高校教諭を経て、昨年7月にクレインサンダーズの運営会社社長に就任しました。ある意味、“畑違い”の場所に挑戦するきっかけは?

阿久澤: 不思議なご縁でしたね。桐生高校の同期・木暮(洋)から一昨年12月に「クレインサンダーズの社長をやらないか?」と連絡が入りました。翌日、詳しい説明を聞いてみると、プロ野球の広島などで活躍したPL学園出身の金石(昭人)君が木暮に話を持ちかけたという。話の元を辿れば、クレインサンダーズの吉田真太郎GMが金石君に相談したところ、「群馬は阿久澤しか知らないな」と私の名前を挙げてくれたようなんです。

 

二宮: 金石さんとは高校時代に対戦していますから、高校野球繋がりだったんですね。

阿久澤: そうですね。金石君は卒業後プロ入りし、私は地元の大学に進んで教員になりましたから、直接の繋がりはありませんでしたが、彼は私の名前を挙げてくれた。40年近くの歳月が経っているにも関わらず。“これもありがたい話だな”と思いました。

 

二宮: 金石さんは練習試合で阿久澤さんからホームランを打たれているので、印象に残っていたんじゃないですか。

阿久澤: 私も金石君のことはすごく印象に残っています。言葉は交わしていなくても、こうやって時を経て繋がったことがうれしかったです。

 

今矢: 高校教諭から、いきなり球団の経営者となることに不安はなかったのでしょうか?

阿久澤: そこまで深く考えていませんでした。ずっと高校野球の指導をしてきて、結果として甲子園には連れて行けませんでしたが、自分の中でやりきった感があった。社長就任の話は光栄でしたし、金石君が名前を挙げてくれたことがうれしかった。“じゃあやってみようかな”と思ったんです。話を聞いてからは、いろいろと調べました。現在のオーナー企業であるオープンハウスがクレインサンダーズを子会社化する経緯などを知り、“不安に感じる必要はないな”と思い、引き受けさせていただくことにしました。

 

二宮: 群馬県に生まれ、県内の学校で育ち、働いてきたネットワークが生きたことは?

阿久澤: たくさんあります。クレインサンダーズの社長として、各所を回っていると、年配の方からは「高校野球観ていたよ」「応援していたよ」と言われます。野球関係の人は「会えてうれしいです」とも。太田市には私が太田高校で教員をしていた時の教え子がスポーツ課課長や商工会の役員だったりする。他校でも教鞭を執っていましたが、経営者になっている教え子がいて、スポンサーになってくれた者もいます。本当に人との出会いに助けられ、不思議なご縁で結ばれていますね。

 

 市民の憩いの場に

 

今矢: オープンハウスさんが群馬やバスケットボールに参画した狙いは?

阿久澤: 実力がありながら陽の目を浴びないクレインサンダーズを「なんとかしないといけない」という声が県内からオープンハウスに届いたそうなんです。オープンハウスの常務執行役員開発事業部長である吉田GMに私が直接お会いした際に「クレインサンダーズを日本一のチームにしたい」と伺いました。その熱意にオープンハウスが本気で、新しいクレインサンダーズをつくりあげようという気概を感じましたね。

 

二宮: B.LEAGUEは地域密着を掲げています。地域との連携面はいかがでしょうか?

阿久澤: まだまだだと思います。クレインサンダーズは地元すら認知度が高くなく、「県民をあげての球団」と呼べるほどではありません。私自身、前橋市内に勤務していても、クレイサンダーズが好成績を収めているにもかかわらず話題になることが少ない。

 

二宮: プロスポーツチーム経営において、チケット、放映権、スポンサーなどの収入源があります。クレインサンダーズはどの点を強化したいと?

阿久澤: 今年2月、ホームタウンを前橋市から太田市に移転することが決まりました。太田市が積極的で、市長をはじめ熱心にクレインサンダーズを支援していただいている。既に太田市界隈にあるいくつかの企業がスポンサードしてくださるという話が進んでいます。また太田市だけにとどまらず太田市周辺の4市にもご協力していただけるようご挨拶に行きました。今後は隣の栃木県を含めた広域にわたって、クレインサンダーズの試合を観に来る人を増やす活動を進めていきます。

 

二宮: B1ライセンスを取得するためには5000人以上収容のホームアリーナを確保する必要があります。クレインサンダーズは太田市に新アリーナ建設を発表しました。約80億円と言われている総工費を「企業版のふるさと納税」を最大限に活用し、賄うというのは過去にない例だそうですね。

阿久澤: 珍しい取り組みということで、ありがたいことにいろいろな方から注目していただいています。太田市、オープンハウス、クレインサンダーズが三位一体となって進めています。建設のための実質負担が1割で済む、画期的な取り組みだと思います。

 

今矢: 企業版のふるさと納税は2016年度からの4年間の時限制度でしたが、24年度までの延長が決まりました。今後、地域密着型のスポーツ施設をつくっていく上で、非常に面白いスキームです。また新アリーナにはスポーツホスピタリティエリアの領域を設けられると伺いました。従来のスポーツハコモノとは異なるアリーナが生まれると期待しています。日本中がスポーツに限らず、地域に愛されるハコモノをつくるきっかけになればいいですね。

阿久澤: そうですね。太田市内の実業家は「クレインサンダーズに関心はあるけど、どうやって関わっていいかわからない」という話も聞きます。私たちとしても新アリーナをつくって終わりではなく、どうやって育てていくかが大事です。市民の憩いの場になるようなアリーナにしたいと思っています。

 

二宮: クレインサンダーズの成功が、県内のスポーツ文化醸成においても大きなカギを握っています。

阿久澤: おっしゃるようにクレインサンダーズが群馬県を熱くする存在でありたい。今季、クレインサンダーズと共に茨城ロボッツもB1昇格を決めました。そうなると来季のB1は宇都宮ブレックスを含め北関東3県が揃う。「北関東ダービー」と銘打って盛り上げていきたいと考えています。B1には信州ブレイブウォリアーズもいますから隣接する4県で手を組み、何かを仕掛けても面白いかなと思っています。

 

阿久澤毅(あくざわ・つよし)プロフィール>

1960年、群馬県生まれ。大胡中学(現・前橋市立大胡中学)時代はエースとして活躍。県大会優勝を経験した。名門・桐生高校に進学後は、主軸として3年時に春夏連続で甲子園に出場。センバツでは2試合連続ホームランを放つなど、ベスト4進出に貢献し、“王貞治二世”と呼ばれた。プロの誘いを断り、地元の群馬大学に進学。卒業後は高校教諭として、母校のほか県内の高校で野球部監督を務めた。昨年7月、B.LEAGUEの群馬クレインサンダーズを運営する群馬プロバスケットボールコミッションの社長に就任した。

 

>>群馬クレインサンダーズHP

 

(鼎談構成/杉浦泰介、競技・プロフィール写真提供/群馬クレインサンダーズ)


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