東京や大阪の新規陽性者数が少し落ち着きを見せたら、今度は地方で感染が広がってきた。世界では抑え込みに成功していたと思われる台湾での感染拡大など、人類はまだコロナウイルスとの付き合い方を掌握できていないようだ。ワクチン接種と治療薬の開発が進みはじめ、昨年よりも大幅に知見は増えているとはいえ、その道のりはまだ途上だ。

 

 その中で開催に向け、黙々と汗を流すアスリート。大会準備に従事している皆さんもいる。開催反対と賛成が世論を二分する中で、この数年の、いや人生をかけて目標に向かってきた方々の心中を思うと胸が詰まる。

 

 とはいえ、コロナ禍で苦しむ人々の目にオリンピック・パラリンピックがどのように見えるのかが開催意義に関わる重要課題だろう。

 人々の共感を得て、コロナ禍で苦しむ人々の「希望となる祭典」。もしくはコロナ禍で苦しむ世界に浮かぶ、選ばれた者たちの「別世界の宴」となってしまうのか。

 

 開催に向けては、大会自体を完全にバブルで隔離してしまい、一般社会との接触を遮断するというのが基本的な条件となるだろう。

 その上で開催に向けての大きなハードルは3つ。

 

 1つ目は観客数問題だ。現在のコロナ対策として人流抑制が必要とされている中でたとえ日本国内とはいえ多くの人が動くと感染拡大のリスクは否定できない。ここは無観客としてしまったほうが運用や感染リスクを考えると賢明ではないかと思う。プロ野球のように限定して入れるという選択肢もあるが、5000人でも観客を入れると、交通機関や街中の案内、会場での誘導や警備などかなりの人手が必要となる。費用と感染対策のことを考えれば、人数制限での運営よりも無観客としてしまったほうがいいのかもしれない。

 

 問われる覚悟

 

 2つ目は医療の確保。自治体の優先順位は、住民の医療サービスの確保、つまり「住民の命と健康」であることは言うまでもない。コロナ禍にあって、住民への医療サービスを低下させ、オリパラに医療資源を割くことは、支持を得られずはずもなく、「希望となる祭典」とはいえない。

 開催都市契約では保健サービスについて開催都市に対し、「IOCから受けたすべての指示に従い、本国への送還を含む必要かつ適切な医療/保健サービスのすべての施策の確実な実施について責任を負う」とされている。だが、コロナで住民に対する医療サービスが逼迫している状況においても、IOCからの指示を優先させることが義務なのか。この状況下で開催を迫るのであればIOCからの医療協力や、各国選手団の医療体制の充実などを求める必要がある。また、自衛隊など民間医療と切り離した医療関係者の協力など、今までは考えていなかったようなアイディアを出さないと住民理解を得ることはできない。

 

 3つ目は、選手団以外の入国者数。現在は8万人程度に絞り込むとなっているが、それでも管理は相当難しいだろう。そもそも今年に入ってからも、毎月2万人の外国人が入国し、自主隔離に頼っている状況。最近になって指定国からの入国を禁じたが、それ以外は自主管理、つまり各自に任せているという体制だ。これではオリパラの前に変異株の侵入を防ぐことなどできるはずがない。

 

 ともあれ、大会関係者をきちんと管理するなら、約2万人までが、地域医療に支障を生じさせずに、検査等も含め必要な体制を確保し、安全・安心な大会の開催が可能な人数と思われる。入国時の検査はもちろん、日常の検査もすべき。東京のPCR検査体制は、1日当たり最大7万人程度まで対応可能となっている。選手団1万5000人+大会関係者2万人、そして一般人の従来の検査。このあたりが検査能力の適正数ではないか。また、選手村のバブルのように、メディア関係者のバブルも必要となるだろう。入国から出国まで選手と同じように扱う。一般社会に取材に出るメディアは2週間の隔離を管理下で行うことを考えると、大会関係者2万人以上の受け入れは難しいだろう。

 

 その上で海外選手団の事前合宿が現状難しいのは明白、早めに中止の判断をしなければ自治体が苦慮してしまう。また、19日に政府の方針として発表されたが、競技に関わらない大会関係者(政府要人、スポンサーなど)は、選手団と接触させない。これらを徹底することが必要だろう。

 

 ここまで書いてきて、もう今までのオリパラとは大きく異なるのははっきりしているが、コロナ過で大会を開催するには、こうした発想に切り替えられなければ不可能である。

 IOCやIPC、大会組織委員会、日本政府、東京都にその覚悟と決断ができるか。

 世界中の注目が集まっている。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

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