新入団選手のトライアウトとドラフト会議が終わり、アイランドリーグはつかの間のオフを迎えています。香川はドラフトで韓国人2選手を含む5名を指名することができました。多くの主力選手が残留を決め、限られた枠内での選考だっただけに、誰を指名するか、かなり悩みました。

 投手は2名。1人目は韓国からやってきたイ・チャンホ(韓国・請願高)です。彼は8月にテストを行ったのですが、140キロ台の速球が非常に印象に残りました。まだ18歳と若く、これからが楽しみな右腕です。西田真二監督と相談の結果、秋の時点で彼を第1号の指名選手として決めました。

 その後、各地で合同トライアウトがありましたが、現状の投手事情を考えると、新たに獲得できるのはひとり程度。その1投手を決めるのは本当に大変でした。選考ポイントは若いこと、足が速いこと、身体能力が高いこと、そしてできれば左腕――。

 なかでも足の速さに注目したのは、足腰のバネを見たかったからです。足の速さとボールの速さは天性のもの。速く走れる足腰を持っているのであれば、それをピッチングにいかせるはずだと僕は考えています。土台がしっかりしない限り、いくら肩が強くてもいいボールを投げることはできません。トライアウトでは投球練習だけでなく、アップ中の走り方やスピードなども、しっかりチェックしていました。

 香川には、残念ながら左投手がいません。サウスポーはノドから手が出るほど欲しいところです。選考の過程では戦力になりそうな左腕も何人か見つけました。しかし、その投手がガイナーズに来て、近い将来NPBのユニホームに袖を通す未来予想図を思い浮かべることがどうしてもできませんでした。

 結果、獲得を決めたのは埼玉でテストを受けた右腕の安達弘晃(二松学舎大沼南高−東海大)です。まず19歳と若い。そして50メートル走のタイムは6秒1。加えて遠投が110メートルと地肩が強い点も決め手になりました。

 持ち球はストレート、スライダー、シュート、フォークと一通りありますが、正直言って、現時点で使えるのはスライダーだけ。ストレートもMAX134キロと球速は足りません。ただ、先にあげた条件を満たしており、伸びしろを感じます。四国でどんな投手に化けるのか、みなさんも注目していてください。

 シーズンオフとはいえ選手たちに休みはありません。来季こそ夢を叶えるため、多くの選手がトレーニングに励んでいます。先日のトライアウトで東京ヤクルトの伊藤秀範(元香川)が挨拶に来てくれましたが、「オフはしっかり練習します」と話していました。NPBの若手選手にとっても、既に来季の戦いが始まっているのです。

 来シーズン、伊藤は大きなチャンスの年になります。ヤクルトはグライシンガー(巨人移籍)、石井一久(西武移籍)など先発陣が抜け、結果次第ではローテーションの仲間入りができるはずです。

 とはいえ彼にはわかっていても打てないような剛速球はありません。香川時代から指摘しているように、アウトローならインハイといった相対関係を意識したピッチングに磨きをかける必要があります。伊藤自身もそのことを課題にしていましたし、荒木大輔新コーチがうまく起用してくれることでしょう。ぜひチャンスをモノにしてほしいと願っています。

 もうひとり香川から巨人入りした深沢和帆はこのオフ、ドミニカで野球修行しています。高橋尚成、内海哲也、金刃憲人の先発陣、ロッテから移籍した藤田宗一、林昌範のリリーフ陣とジャイアンツは今や左腕王国になりました。その中で深沢が1軍にくいこむのは、大変な道のりです。

 昨年の深沢はキャンプで脇腹を痛めたのがすべて。最初のつまづきでシーズンを棒に振ってしまったようなものです。せっかくドミニカに行って投げる機会を得られたのですから、キャンプインまで今の状態をキープしてほしいと思います。今年、キャンプを乗り切れなければ「ケガに弱い」という首脳陣の先入観が固定観念化してしまうでしょう。これでは1軍昇格の機会はやってきません。

 キャンプを無事クリアすると同時に、誰が自分のライバルになるのか、見極めが大切になります。これだけ選手層が厚い中、漠然とピッチングをしていてもチャンスは巡ってきません。中継ぎなら中継ぎ、先発なら先発で、誰を追い越せば1軍に上がれるのか、そして、その投手に負けないためには何が必要か。よく考えて、日々の練習に取り組んでほしいですね。

 一流選手やベテランにならない限り、シーズンオフは完全オフではありません。この年末年始にやったことが春に向けての力になります。年明けにたくましくなった選手たちにたくさん会えることを楽しみにしています。

>>その他のアイランドリーグドラフト指名選手の情報はこちら(12月11日更新、6球団がドラフト会議、38選手がトライアウト最終合格)

加藤博人(かとう・ひろと)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1969年4月29日、千葉県出身。87年ドラフト外で八千代松陰高からヤクルトに入団。2年目の89年に6勝9敗、防御率2.83(リーグ8位)の成績を挙げて一軍に定着。故障で戦列を離れた年もあったが、貴重な中継ぎサウスポーとして95年、97年のチームの日本一に貢献した。分かっていても打てないと評された大きく曲がり落ちるカーブが武器。01年に近鉄に移籍後、02年には台湾でもプレーした。日本球界での通算成績は27勝38敗、防御率3.85。05年にスタートした四国アイランドリーグで香川のコーチに就任。現役時代に当時の野村克也監督から学んだ“野村ノート”や自らの故障経験を活かした丁寧な指導で高い評価を受けている。

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