五輪サッカーにオーバーエイジ(OA)枠が設けられたのは1996年アトランタ大会からである。メンバーは23歳以下(東京五輪は1年延期されたため24歳以下)が基本だが、3人だけ24歳以上(東京五輪は25歳以上)の選手が認められる。

 

 

 そもそも、なぜサッカーに限って代表選手は23歳以下なのか。IOCは74年に五輪憲章からアマチュア条項が削除されたのを機にフル代表での参加を求めた。だが、ワールドカップを最高峰の大会と位置付けるFIFAには呑める話ではない。そこで折衷案として92年バルセロナ大会から年齢制限が設けられたのである。OA枠は、さらなる妥協案の産物といっていいだろう。

 

 さて、「金メダルを狙う」(森保一U-24日本代表兼A代表監督)五輪日本代表である。指揮官はOA枠にA代表のレギュラーMF遠藤航(シュツットガルト)、DF酒井宏樹(浦和レッズ)、DF吉田麻也(サンプドリア)の3人を選出した。五輪50日前でのOA合流は史上最速だという。チームに早く慣れさせたい、との指揮官の意向を受けてのものだろう。

 

 OA枠の3人が揃って出場したのが、さる6月5日、ベスト電器スタジアム(福岡市)でのU-24ガーナ代表戦である。日本は危なげない戦いぶりで6対0と大勝した。

 

 まずは遠藤。中盤の底でのボール奪取力と展開力は、さすがである。デュエル・キングの名に恥じない活躍を見せてくれた。

 

 酒井は攻守ともに手堅い。遠藤、酒井のいる右サイドの破綻は、まず考えられない。

 

 そしてセンターバックの吉田だ。東京五輪ではキャプテンマークを付ける。

 

 ガーナ戦では存分に存在感を発揮した。

 

 後半26分、ピッチ中央のルーズボールにMF田中碧(川崎フロンターレ)が反応し、右サイドへボールをフィードした。

 

 その直後である。相手DFのフランク・アシンキが田中を削りにきたのだ。スパイクの裏が見えており、悪質なファウルのような印象を受けた。審判はイエローカードを突き出した。

 

 ここで吉田の登場である。オニのような形相でガーナ人を睨みつけると、首筋を掴み、「オイッ!」と凄んだのだ。

 

 イングランドやイタリアのクラブで世界的なアタッカーと渡り合ってきた吉田の“顔”は、世界中に知れ渡っている。

 

 この威嚇について、試合後、吉田は<可愛い選手たちが削られたら、やっぱり行かないといけない>(6月6日付『スポニチ』)と語った。続けて<そういうところ(ジャッジング)も味方にするのも試合をマネジメントする一つのすべ>(同前)とも。

 

 吉田の威嚇がきいたのか、それ以降、ガーナのダーティなプレーは鳴りを潜めた。

 

 吉田は過去2回のW杯(14年ブラジル、18年ロシア大会)に加え、五輪にも2回(08年北京、OAとして12年ロンドン大会)出場している。年齢は32歳。日本をメダルに導く、心強い“兄貴”である。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2021年6月27日号に掲載されたものです>

 


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