11月に開幕した世界最高のバスケットボールリーグ・NBAは、今季も例年通りの激しい戦いを続けている。
 最近では日本ではすっかり注目度が落ちてしまったが、スピード感と躍動感に溢れるNBAのアメリカでの人気は健在。今季には新たな躍進チーム、スター選手も飛び出し始め、その盛り上がりに拍車をかけている。6月のファイナルを迎えるまで、今後も数々の華やかなシーンを生み出して行ってくれそうだ。
 それにしても、これほどエキサイティングで楽しいスポーツなのに日本での露出が少ないのは何とも寂しい。そこで今回は、今季のNBAにまつわる話題の中から、幅広い人気獲得をテーマとしたトピックを集めてみたい。久々のNBA人気爆発に向け、必要なものは……?
(写真:「無冠の怪物」ケビン・ガーネットはボストンに移籍し、初タイトルに絶好機到来)
 セルティックスの「新ビッグスリー」への期待

 日本でNBAの陰が薄くなった最大の理由は、国境を軽々と超えるほどの魅力を秘めた大スターの不在。かつてのマイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンのような存在がいなくなったため、リーグ全体の一般への希求力、話題性が希薄となってしまったのだ。
 今後、世代や性別を超えてファンを惹き付けられるヒーロー、スーパーチームが生まれれば、NBAが全盛期の人気を取り戻すことも不可能ではない。いまだに「ジョーダン2世」が待望され、強豪が登場するとすぐに往年の伝説的チームであるブルズやレイカーズと比較される理由はそこにある。

(写真:今季開幕前後、米スポーツ界は新ビッグスリーの話題で持ち切りだった)
 今季、ボストンの街に、NBAの新たなシンボルとなり得るポテンシャルを秘めたスタートリオが誕生した。古豪セルティックスに、ケビン・ガーネット、レイ・アレン、ポール・ピアースという人気、実力を兼ね備えた3人のスーパースターが集まったのだ。
 昨季までは生え抜きスターのピアース1人に頼り切り、低迷を続けていたセルティックス。そこに現役最高級のビッグマンであるガーネット、リーグ有数のシューターと言われるアレンが加わった。これで一躍今季最大の注目チームとなったセルティックスは、昨オフと開幕後の話題を独占。
 そして今季開始後も、最初の1ヶ月間で14勝2敗と最高のスタートを切った。今後も順調に行けば、彼らはNBAの枠を超え、アメリカンスポーツを代表するようなスタートリオとなる可能性もある。

「優勝するまでは彼ら3人を“ビッグスリー”」とは呼べない」
 セルティックスのダニー・エインジGMはそう語り、慎重な姿勢を崩していない。だがリーグ全体の人気回復に向け、この魅力的な3人にかかる期待は余りにも大きい。ぜひともプレーオフに向けて、このまま破竹の勢いで突っ走って欲しいもの。そしてその過程で、クリーブランド・キャブスのレブロン・ジェームス、マイアミ・ヒートのドウェイン・ウェイド、オーランド・マジックのドワイト・ハワードといったイキの良い若手スターたちと激闘を繰り広げて欲しい。
 そんな楽しみな新展開の先に、NBAの新たな隆盛への足がかりがやっと見えてくるのだ。

 スパーズの2連覇はなるか

 そのセルティックスがイースタンカンファレンスの雄なら、ウエストの優勝候補筆頭はやはり昨季王者サンアントニオ・スパーズ。抜群の安定感を誇り、過去9年間で4度もファイナルを制したスパーズは、今季も当然のように圧倒的な前評判を勝ち得ている。
 チームの中心はこちらも3人のスター。「史上最高のPF」の名を欲しいままにするティム・ダンカン、フランス産の高速PGトニー・パーカー、アルゼンチンの曲芸師マヌー・ジノビリという国際色豊かなトリオである。
(写真:スパーズの司令塔トニー・パーカーは初の連覇に向けて自信満々だ)

 抜群のケミストリーを誇るこの3人は、優勝経験豊富という点でセルティックスの新ビッグスリーよりも現時点では格上。派手さはなくとも、実力派トリオが健康な限り、スパーズは今季も確実に上位に進出してくるだろう。
 それほど強いスパーズだが、この芳醇の9年間でも意外にもまだ2連覇は一度も達成していない。ファイナルを勝った翌年はプレーオフのどこかでつまずくのが恒例。そんな嫌なジンクスの打破を目指し、近代最強チームの名声を確固とするため、今季は連覇に向けて必勝態勢で臨んでくることは間違いない。さて、そんなやる気満々の上昇軍団を倒せるチームは今年こそ現れるのか?

 しかし、確かに強いが余りに地味なスパーズは、米国内で「視聴率キラー」と呼ばれてしまってもう久しい。
 NBA人気回復が合言葉の今季、なんとかより攻撃的なチームにスパーズを撃破して欲しいところ。「ラン&ガン戦術」の浸透で人気を博すフェニックス・サンズには、特に大きな期待がかかるが……?

 コービーはトレードされるのか

 現在のNBAで最高の選手は、ロサンジェルス・レイカーズのコービー・ブライアントであると言われる。
 個人的にはチームを勝利に導く能力に長けたレブロン・ジェームスかティム・ダンカンをコービーより上に据えたい。だがそうだとしても、コービーこそが最強の得点マシンであり、最大級のスター性を誇る選手であることを否定するつもりはない。2年前の81得点ゲームを始め、打ち立てた記録は数知れず。かつて他ならぬマイケル・ジョーダンが、自分の後継者にコービーを指名したのも有名な話である。

 しかしそんなコービーだが、昨オフは移籍問題で揺れに揺れた。戦力アップが一向に進まないレイカーズに業を煮やし、トレード志願とその撤回を短期間で何度も繰り返したのだ。チーム側もそんなコービーの態度に失望し、実際に移籍交渉を開始。一時はシカゴ・ブルズとの間で、トレードが成立寸前までいったと言われる。
 12月上旬のいま、コービーは依然としてレイカーズのエースとして君臨している。しかしもしもチームが今後に低迷を始めれば、彼が再び不満を爆発させるケースは十分に考えられる。その場合には、2月のトレード期限前後にまた一悶着起こることになりそうだ。
(写真:コービー・ブライアントの行方が今後のNBAにもたらす影響は計り知れない)

 スター性に富んだコービーは、個人的にはやはり華やかなハリウッドへ残留するのが最善だとは思う。だがこのまま勝てないチームにいては、確かに宝の持ち腐れでもある。だとすれば、ジョーダンの古巣であるブルズ、同じく巨大マーケットのニューヨーク・ニックス(実現は極めて困難だが)あたりへの移籍が実現した方が、本人にとってもリーグにとってもベターなのかもしれない。
 いずれにしても、リーグ最高の選手の1人が去就問題ばかりで騒がれるのは何とも寂しい。早いうちにステイタスをはっきりさせ、再び抜群の得点力を発揮して行って欲しいもの。なんだかんだ言っても、コービーはファンの心に軽々と火をつけられる数少ない選手なのだから。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト Nowhere, now here
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