FCバルセロナでプレーするグリーズマン、ベンデレが2年前に来日した際の動画が流出した。ホテルの部屋で持参したテレビゲームをしようとした彼らが、設置に来たホテルのスタッフをカメラで撮影し、その容姿や言語を侮辱したとも取れるものだった。

 

 騒ぎが大きくなると、ベンデレとグリーズマンの両者は差別の意図を否定しつつ、一応は謝罪の言葉を発表した。

 

 百歩譲って、彼らに人種差別の意図はなく、普段使っている汚い言葉が出てしまっただけ、だとしよう。実際、フランス人の友人に動画を見てもらったところ、「人種差別というよりは、職種差別に近いかも」とも言っていた。庶民を見下す金持ちの態度。なるほど。

 

 ただ、どんな意図があったにせよ、彼らは自分たちのために作業をしてくれているスタッフを嘲笑している。少なくとも、フランス語ができないことを馬鹿にしてはいる。

 

 森会長の女性蔑視とも取れる発言が問題になったとき、よく言われたのは「本人にそのつもりがなくとも、当事者がそう感じたらアウト」ということだった。だとしたら、ベンデレの発言と態度は、アウトどころかゲームセットものである。

 

 94年のW杯米国大会で、ドイツのエッフェンベルクがファンの野次に腹をたて、思わず中指を突きたててしまった。ドイツサッカー連盟の決断は早かった。即座に強制帰国。エッフェンベルクがやったのは人種差別ではない。ファンに対する侮辱、挑発だった。プロスポーツがファンによって支えられている以上、断じて許されることではない。たとえエッフェンベルクを挑発したのが、彼のファンどころか、サッカーファンですらなかったとしても、許されることではない。

 

 と、わたしは思う。思うのだが、「いや、素晴らしいプレーヤーであれば許す」という考えがあってもいい。その処遇を決定するのは、あくまでも所属するチームになる。ファンやマスコミ、スポンサーではない。昨年秋、新潟は酒気帯び運転が発覚した2人のブラジル人選手を解雇した。ほぼ時期を同じくして、ガンバ大阪も酒気帯び運転で事故を起こしたブラジル人選手を解雇した。

 

 バルセロナは、未だ何も、動いていない。

 

 ネット上では、メインスポンサーである楽天の反応が注目されていたが、ここにきて三木谷社長が正式に抗議をした、というニュースが入ってきた。ただ、バルサ側の動きはない。スペインの新聞を見ても、一連の騒動を重大視している気配はまったくない。

 

 バルセロナにとって、楽天は極めて重要なパートナーのはず。そして、楽天がどこの国の企業かも分かっているはず。自分たちの選手がその国を嘲笑し、その国の人たちの怒りが高まりつつある中、何もしないで放っておけるクラブの神経がわたしには理解できない。ついでにいうと、何もしないクラブに批判の刃を向けないスペインのメディアの鈍感さにも呆れる。

 

 彼らの関知しない、しようとしないところで広がった炎は、いまや海を越えて中国にも燃え移りつつある。日本人だけでなく、中国人にとってもあの動画は不快だったらしい。再見巴塞罗那。さよならバルセロナ。そんな言葉のロケットが発射台に乗りかけていることを、バルサの皆さん、ご存じ?

 

<この原稿は21年7月8日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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