27日、東京パラリンピックの視覚障がい者柔道初日が東京・日本武道館で行われた。男子66kg級3位決定戦で瀬戸勇次郎(福岡教育大)がギオルギ・ガムヤシビリ(ジョージア)に一本勝ち。銅メダルを獲得した。女子48kg級3位決定戦で半谷静香(トヨタループス)はユリア・イワンツカ(ウクライナ)に敗れ、リオオリンピックパラリンピックに続く2大会連続の5位入賞。同52kg級3位決定戦の藤原由衣(モルガン・スタンレー・グループ)も5位入賞だった。

 

 鮮やかな一本勝ちで銅メダルを手にしたのは、パラリンピック初出場の瀬戸だ。得意の背負い投げと大内刈りを武器に攻めの柔道で、金メダルのウチクン・クランバエフ(ウズベキスタン)、銀メダルのセルヒオ・イバネスバノン(スペイン)、もうひとりの銅メダリストのナミク・アバズリ(アゼルバイジャン)と共に表彰台に上がった。

 

 21歳の若武者は、初戦でエドゥアルド・ガウトガレゴス(アルゼンチン)に一本勝ち。隅落としで技ありを奪うと、得意の大内刈りで一本を取った。しかし序盤は指導を与えられるなど、「思ったような柔道をできなかった」と反省の多い内容だったという。

 

 約30分後に行われた準々決勝でクランバエフに一本負けを喫した。パラリンピック独特の緊張感が足枷となった。「1、2試合目はメンタルでうまくいかなかった」と瀬戸。ここで目標としていた金メダルの可能性は途絶えた。

 

 それでも銅メダルの可能性は残っている。敗者復活戦でムンフバト・アージム(モンゴル)に大内刈りで一本勝ち。3位決定戦に進んだ。先に行われた女子48kg、女子52kgの3位決定戦で日本勢は敗れ、初日のメダル獲得は瀬戸に託された。

 

 メダルを懸けた試合の相手はガムヤシビリ。18年世界選手権の銅メダリストだ。瀬戸は攻勢を仕掛け、投げの機会を窺った。ところが序盤、大内刈りを返され、先に技ありを取られた。それでも瀬戸は攻めの姿勢は失わなかった。

 

 試合前から「効果がある」とコーチ陣と踏んでいた支え釣り込み足を狙い、技ありを取り返した。これで1-1の同点。精神的にも追いついた瀬戸の方に分があったのだろう。直後、相手が打って出た内股をうまく返した。「狙っていたわけではなく(身体が)反応した」という内股透かしで一本。逆転勝利を収めた。

 

「金メダルを目指した。最低限の結果」と瀬戸は満足していない。3年後のパリ大会は24歳で迎えるだけに首脳陣の期待も大きい。「伸び盛り。今後期待できる」とは男子日本代表の遠藤義安監督。本人は今後について「目の前の試合をひとつひとつ」と足元をしっかり見つめている。その一歩一歩がパリの道に繋がるはずだ。

 

 初の武道館

 

「B1(全盲)でもできることを証明したかった。納得いっていない」

 そう言葉を詰まらせた半谷。ロンドンから続く3大会連続のパラリンピックは苦い記憶となった。

 

「憧れの地」という日本武道館の畳に上がり、悲願のメダル獲得を狙った。しかし初戦(準々決勝)で、この日金メダルを獲得したシャハナ・ハジエワ(アゼルバイジャン)に締め落とされ、一本負け。それでも敗者復活戦は劇的な逆転勝ちを収め、3位決定戦に進んだ。

 

 3位決定戦の相手、イヴァニツカは2大会連続の銅メダリスト。彼女はB2(視力0.0025から0.032までか、視野直径10度以内)だが、試合では障がいの度合いでクラス分けを行わないため、2人は畳の上で対峙することとなった。

 

 さらに言えば、イヴァニツカに半谷はリオの3位決定戦で敗れていた。「畳に上がった瞬間に恐怖心を感じてしまった」と気持ちで引いたところを突かれ、小内刈りを食い、ポイント差で敗れたのだ。

 

 実績では劣るが、苦手意識を持っているわけではない。1年前、銅メダルを獲得したドイツの国際大会では敗れたものの、技ありを奪っていた。「(相手からポイントを奪った)再現をしようと思った」。半谷は攻めた。モットーの「攻撃こそ最大の防御」を貫いた。

 

 しかしポイントを奪えない。残り1分半を切ったところで、相手の払い腰をさばき切れなかった。技ありを取られ、リードを奪われる結果に。逆転勝ちを狙い、攻め続けたが無情にも時間は過ぎていった。

 

「攻め続ける柔道はできた。目標のメダルに届かなかったのは自分が弱かったから」と半谷。順位は5年前と変わらないが、最後まで自分の柔道を貫いた。そのこと自体に後悔はないはずだ。

 

 初の武道館は女子52kg級の藤原も同じ。「朝、畳に上がった時、イメージとは違うワクワクドキドキ感があった」と振り返った。初戦はバスティ・サファロワ(アゼルバイジャン)に勝利したものの、準決勝はシェリネ・アブデラウーイ(アルジェリア)に敗れ、3位決定戦に回った。

 

 3位決定戦は北京パラリンピック銅メダリストのアレシア・ステパニウク(RPC=ロシアパラリンピック委員会)が相手となった。技ありを取られた後、寝技でつかまった。「締め技を逃げようとしたころを抑え込まれた」。10秒が経過し、合わせ技一本で敗れた。

 

 憧れの地でのメダル獲得はかなわなかった。29歳はパリパラリンピックに「チャレンジできたらいい」と意欲を見せた。

 

(文/杉浦泰介)