ほんの50日ほど前、「開会式が始まれば人々は問題を忘れ大会を楽しむだろう」とのたまったのは、米NBCのシェルCEOだった。

 

 なんと無神経な、というのが率直な感想だったが、彼の言葉には正しい部分もあった。わたし個人に関して言えば、確かに五輪を楽しんだからだ。時期をずらし、お客さんを入れてやれば、もっと素晴らしかったのに……との捨てきれない思いを抱きつつ、楽しんだ。

 

 で、シェルさん、あなたはいかがでしたか?

 

 NBCがIOCに日本円で1兆円を超える放映権料を支払ったのは、払った分を超えるリターンがあったから。つまり、視聴率と広告収入で十分にペイできるという計算があったから。

 

 ところが、今回の東京五輪に関して、NBCの目論見は完全に外れたらしい。視聴率は大幅に落ち、広告収入も期待にはほど遠いものだったとか。

 

 原因はいくつかあげられている。まずは時差。そして視聴習慣の変化。要は、地上波でテレビを見る層が確実に減っているということらしい。何にせよ、自信満々で大会と自社の成功を疑わなかった御仁には、今後、株主からの厳しい目が向けられることになろう。

 

 視聴習慣が変わりつつあるのは、日本も同じ。だからなのか、テレビ=地上波な発想から抜けきれない世代にとっては衝撃的だったW杯アジア最終予選のアウェーゲームが地上波では放送されなくなった、というニュースは、思ったほどの騒ぎにならなかった。テレ朝で見られなくても、ダゾーンがやるならいいや、といったところなのか。

 

 ただ、やっぱり納得がいかないところがある。

 

 プレミアリーグや欧州CLの放映権料が高騰を続けているのは、まだわからないこともない。放映権料が高騰したことにより、選手たちは以前とは比べ物にならないほどの大金を手にできるようになった。というより、テレビで中継されることによる収入がなければ、欧州のサッカーは成り立たなくなっている。

 

 今回、アジアサッカー連盟(AFC)が日本に提示してきた放映権は、8年契約で2000億円、単年換算でこれまでの5倍になる額だという。

 

 はて、これほどの大金は一体何に使われるのか。

 

 一応、AFCは最終予選でのホームゲームに対し、それぞれ3000万円の補助金を出すとしている。12チームが出場する最終予選では、それぞれが5試合ずつホームで戦う。ということは、AFCから支払われる総額は18億円になる。

 

 ん?

 

 W杯予選は4年に一度しか行われないが、仮に毎年行われたとしても、8年間で144億円。日本からだけでも2000億円が入るはずなのだが、残りの使い道はまったく見えないし聞こえない。

 

 そもそも、出場クラブが巨額のギャラを選手に支払っている各国リーグやCLと違い、代表戦で生じるのは雀の涙のような出場給ぐらいである。これではいかん、AFCが補てんしよう……とでもいうなら納得もいくが、そんな話もまるで聞こえてこない。

 

 かつてのバブル経済の例を見るまでもなく、一度膨らみ始めた強欲は、弾けるまで止まることはない。IOCのバブルには、どうやら終わりの気配がしてきた。さてAFCは?

 

<この原稿は21年8月27日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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