空手といえば沖縄、沖縄といえば空手である。東京五輪では空手男子形で喜友名諒(劉衛流龍鳳会)が優勝し、沖縄県出身者として初の金メダリストとなった。あの獲物を仕留めるような鋭い眼光に心を射抜かれた向きも多かったのではないか。

 

 喜友名が師事する佐久本嗣男は劉衛流の5代目で、ワールドゲームズの空手形で7連覇を達成している。技の攻防一体、連続動作が同流派の特徴だ。

 

 空手のルーツについては諸説ある。琉球王国時代の士族の護身術「手(ティー)」が沖縄古来の武術となり、その後、中国武術と融合して現在の形に発展したというのが一般的だ。

 

 沖縄県によると県内の空手人口は約1万人。道場は大小合わせて386。まさに空手王国である。

 

 ところで沖縄は来年5月、本土復帰50周年を迎える。それを記念して沖縄空手をユネスコ無形文化遺産に登録しようという動きが本格化している。

 

 そもそもユネスコ無形文化遺産とは何か。農水省のHPによると、「芸能や伝統工芸技術」など“形のない文化”が対象で、「土地の歴史や生活風習などと密接に関わる文化」の中から選定され、登録されるのだという。これまで日本からは「能楽」「歌舞伎」「和紙」などが登録されている。意外なところでは「和食」があげられよう。

 

 では格闘技や武術が無形文化遺産に登録された例はあるのか。調べてみると、これがあるのだ。例えば韓国の伝統的な武芸であるテッキョン、ブラジルの民族格闘技カポエイラも登録されている。

 

 この2つがどういう経緯で登録されたのか定かではないが、「土地の歴史や生活風習などと密接に関わる文化」という基準に照らせば、沖縄空手も十分、その資格があるように思われる。

 

 というのも、沖縄空手は結婚式の披露宴や公民館の落成式など、お祝いごとのたびに演武が披露される。こうした日常での光景を目にすれば明らかなように深く地域に根差すとともに、人々の生活に分かち難く結びついているのだ。

 

 県の空手振興課の担当者は「喜友名選手の五輪での活躍が空手を知っていただく一番の広報、宣伝になった」という。ウチナンチュの金メダル獲得が、無形文化遺産登録運動への追い風となっているのであれば、これこそは喜ばしき五輪のソフトレガシーだろう。

 

<この原稿は21年9月8日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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