球春到来――。2月1日、NPBの各球団は一斉にキャンプインを迎える。今シーズンは新たに過去最多の6選手がNPBの門をくぐり、計11名の出身選手が1軍での活躍を目指す。九州の2球団を加え拡張するリーグの行方とともに、彼らの動向も気になるところだ。四国からNPBにはばたいた選手は、今年1年をどんな形で、どんな思いで過ごそうとしているのか? その今を追いかけた。

▼三輪(ヤクルト)ら、ルーキーたちの今も紹介
 NEW深沢は「負けない!」――深沢和帆(巨人)

 このオフ、深沢は日本から遠く離れたドミニカの地にいた。ニューヨークまで飛行機で12時間、そこから大西洋を南下して飛行機で4時間。ようやくたどり着いたと思ったら、宿舎は空港から車で2時間もかかった。

「結果が出なくて情けないシーズンでした」
 そうルーキーイヤーを振り返る左腕にとって、カリブの島は来季に向けた絶好の修行場となるはずだった。ところが――。3試合に登板し、12月を迎えたところで深沢は試合のマウンドに上がれなくなってしまった。

 野球協約第173条には、「球団または選手は、毎年12月1日から翌年1月31日までの期間においては、いかなる野球試合または合同練習あるいは野球指導も行なうことはできない。ただし、コミッショナーが特に許可した場合はこの限りではない」とある。つまり、深沢のオフシーズン(12月以降)の登板は協約違反にあたるというのだ。
「選手会にお願いすれば問題ないという話でドミニカに行ったのですが、結局、最終的には“ムリだ”という返事でした」

 深沢はドミニカから何度も選手会事務局にメールや電話で試合出場の許可を求めた。
「同年代の林(昌範)、深田(拓也)、山口(鉄也)、彼らはみんな1軍で活躍しています。僕にはまだまだ経験が足りません。ぜひドミニカで経験を積みたい。投げさせていただけないでしょうか」
 しかし、選手会側が首を縦に振ることはなかった。

 帰りたいと思っても、日本から見れば地球の裏側にあるような土地だ。深沢は残りの約1カ月間、試合に出られない思いを練習にぶつけた。毎日、レフトポールからライトポールの間も何本も走った。これが来シーズンにつながれば、と思いながら。

 ただ、異国の地で学んだことは多かった。車で移動していると突然、子供が窓ガラスを叩いて拭き掃除を始める。そして、その子供は言った。「お金ちょうだい!」。同乗していた他の選手が苦笑いしながら、“窓拭き代”としてわずかばかりのお金を渡した。子供たちのたくましさに深沢は舌を巻いた。

 グラウンドでも驚くことがあった。ドミニカの選手たちはどんな状況でも常に全力プレーをみせていた。捕球ひとつとっても、彼らはお世辞にも巧いとはいえない。しかし、絶対に打ってやる、捕ってやる、抑えてやるという気持ちが全身からみなぎっていた。日本ではプロでさえ、コーチがストップウォッチで計らないと、全力疾走を怠る選手がいるというのに……。一言で表現すればハングリー。子供の頃から鍛えられた彼らの精神的強さを感じずにはいられなかった。

 Max146キロの速球派サウスポーにとっては紆余曲折の1年だった。まず、出だしでつまづいた。キャンプが始まって5日目で左脇腹を肉離れ。フォーム改造に着手したところ、これまで使っていなかった筋肉に負担がかかった。アピールするはずだったキャンプはリハビリの場に変わった。ようやく2軍で初登板を果たしたのは4月29日の北海道日本ハム戦。開幕から約1カ月が過ぎていた。

 不本意なシーズンになった原因はケガのせいだけではない。5月20日のグッドウィル(西武2軍)戦、深沢は6回からマウンドにあがったものの、2回3失点。四球を出しては打たれる最悪の内容だった。
「オマエのピッチングはただ投げているだけ。闘志が感じられない!」
 マウンドを降りると香田勲男2軍コーチ(当時)に一喝された。それから8月に入るまで公式戦での出番はなかった。

「自分ではそういうつもりはなかったんですけど、まだまだプロとしての意識が足りないように見えたんでしょうね」
 結局、ドラフト指名時に「レタス畑バイトから巨人へ」との大見出しでスポーツ紙の一面を飾った男は1軍の5年ぶりのリーグ制覇にも、2軍の7年ぶり優勝にもほとんど貢献できなかった。

 そんな深沢にとって、ドミニカ修行は野球人としての“心”を教えてくれた旅だったのかもしれない。
「日本では、ちょっとおっかなびっくりやっていた部分があったんです。でも向こうの人は常に前を向いて野球に取り組んでいる。言葉にするのは難しいんですが、とにかく“何なんだ、こいつらは”と思いましたね(笑)。僕があれこれ悩んでいたことが、すごくちっちゃく見えてきました」

 2年目に向けて精神面に加え、技術面でもプラス材料がある。フォーム改造が実を結び、10月のフェニックスリーグでは満足のいく投球ができた。秋からは新球フォークの習得に励んでいる。
「アイランドリーグ時代とは違って、まっすぐで空振りをとるのは難しい。持ち球のスライダー、カーブを使って、どううまく芯を外して打たせてとるかということを考えないと生き残れないですから」
 
 今季の巨人は大型補強を敢行した。ラミレス、グライシンガー、クルーンといった目玉選手ばかりが注目を集めるが、ロッテから藤田宗一、オーストラリア代表のバーンサイドと左のリリーバーをしっかり獲得している。林、山口といった若手も交え、1軍の中継ぎ枠を巡る争いは熾烈だ。

「山口、林には負けたくないです。負けられない」
 その話題を振ると、深沢は大きな声できっぱりと言い切った。今季は何が何でも1軍に上がること。そしてアイランドリーグ出身投手初の1勝をもぎとること。2つの目標を達成するためには、まず同年代のライバルを蹴落とさなくてはいけない。
「四国のときは試合に出られないなんてなかった。でも、この世界はダメだったら試合に出られない。いい選手がいたら、そっちを使われる。だから負けられないんです」

 優しそうな笑顔は四国時代と変わらない。しかし、笑顔の中から出てくる言葉は四国時代と変わった。「負けたくない」。その言葉を取材中、何度聞いただろう。
「NEW深沢を出したいと思っています」
 四国発、ドミニカ経由、東京ドーム行き。その搭乗券を求めて、背番号59は宮崎で2年目のシーズンをスタートさせる。

(このシリーズは不定期で更新します)

深沢和帆(ふかさわ・かずほ)プロフィール
 1983年9月16日、山梨県出身。左投左打。駿台甲府高を経て東亜大2年時より投手に転向する。大学中退後はクラブチームで野球を続け、05年のアイランドリーグ誕生と同時に香川に入団。リーグ2年目(06年)に入って140キロを超える威力ある速球を武器に急成長する。33試合で5勝2敗4セーブ、防御率1.01で最優秀防御率のタイトルを獲得。同年秋の大学生・社会人ドラフト5巡目で巨人へ入団した。期待された昨年のルーキーイヤーはケガなどもあり、2軍で13試合、0勝0敗1セーブ、防御率4.50の成績に終わった。


<三輪(ヤクルト)が1軍スタート 〜リーグ出身ルーキーたちの今〜>

 今シーズンよりNPBのユニホームに袖を通す6選手もそれぞれ合同自主トレを終え、キャンプインを目前に控えている。
 リーグ出身ルーキーとして初の1軍メンバー入りを果たしたのが、東京ヤクルトの三輪正義(元香川)。既に沖縄に先乗りし、初めてのキャンプに向けて準備を整えている。チームの先輩で同じショートの城石憲之からバットを譲り受け、早速、同じモデルを発注した。
(写真:「ゲッツーを想定して捕るように」との指導を受けながらノックを受ける)

「最初のイメージが大事ですからね。(香川の)西田(真二)監督からも“まだ、オマエは半人前。1軍に残ってからが本当のプロ野球選手”だと言われました」
 昨年までのレギュラー、宮本慎也のサードコンバート案が出ており、ショートのポジションは空くチャンスがある。昨秋、ヤクルトとの交流試合で高田繁新監督に認められた俊足を武器に初日からアピールするつもりだ。
 
 同じくヤクルトで育成選手として入団した小山田貴雄(元高知)は2軍スタートになる。合同自主トレではゴールデンルーキー佐藤由規(仙台育英高出身)の相手役を務め、ブルペンで快速球を受けた。「すべてが違う。勉強になります」。NPBの力量を肌で感じつつ、「トレーニングのおかげで一回り大きくなった気がする」という190センチの恵まれた体で更なるレベルアップをはかる。
(写真:ルーキー佐藤(右)とブルペンで話をする小山田)

 千葉ロッテに入団した3名の育成選手は1年先輩の角中勝也(元高知)らとともに鴨川2軍キャンプで第一歩を踏み出す。小林憲幸(元徳島)はトレーニング中も注目ルーキーの唐川侑己(成田高出身)らに声をかけ、よきムードメーカーになっている。「楽しくやっています。初日からアピールする準備はできていますよ」と声も明るかった。

 宮本裕司、白川大輔(いずれも元高知)の2選手も軽快にティーバッティングやノックで体を動かし、順調に体づくりが進んでいた。取材当日は最後に時間走のメニューが組まれていたが、宮本は顔を真っ赤にしながら先頭集団でゴール(写真)。一方、「ちょっとメタボの危険性あり」(関係者)との指摘もあった白川は、なんとか時間内にゴールした。とはいえ19歳のルーキーは、「まだまだ大丈夫です」と、すぐにいつもと変わらぬ表情に戻っていた。
 
 また、育成選手としてオリックス入りする梶本達哉(元愛媛)は高知でキャンプイン。リハビリ中の清原和博が参加するなど話題は多いが、1年間プレーした四国の地でファンの声援も多いことだろう。まずはじっくりと支配下登録への足がかりをつかみたい。

(石田洋之)

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