ステイホーム期間中、すっかり、この番組の魅力にはまってしまった。BS-TBSの「町中華で飲(や)ろうぜ」。何のことはない。玉ちゃんこと玉袋筋太郎が主に下町の“町中華”を食べ歩くというシンプル極まりない企画なのだが、十人十色ならぬ十店十味。番組のナレーション風に言えば、そこには「常連客が愛してやまない昭和の風情」が色濃く残っている。落語の人情噺を思わせる玉ちゃんと店主の会話が、これまた絶妙なのだ。

 

「ウチはJクラブである前に町クラブでありたい。また、そうあるべきだと思っています」。そう語るのは横浜の本牧を拠点とするJ3・YSCC横浜の吉野次郎理事長だ。

 

「WE NEED JUSTICE」。ミャンマー代表のGKピエ・リアン・アウンが命の危険をも顧みず、国歌斉唱時に3本指を突き立て、国軍による軍事クーデターに抗議したのは今年5月28日。身に危険が及ぶ恐れがあったため、入管に保護を求め、8月20日に難民認定された26歳を受け入れたのがYSCCだった。既に4人のGKがいたため、チームはフットサルの選手として契約した。「彼は身長175センチ。GKとしては、そう高くない。しかし勇敢で動きもいい。むしろフットサルの方が向いているのではないか」と吉野。10月8日、アウンは湘南ベルマーレとのFリーグ中断明けの一戦(横浜武道館)をスタンドから観戦した。

 

 吉野によると、普段の練習時間は朝6時から8時まで。アウンは9時半から仕事に出かける。「今はまだ心身ともに疲れが残っている。しばらくは二足のワラジになるが焦らずにやって欲しい」。長い目で見守るつもりだ。

 

 クラブが力を入れているのは難民支援だけではない。事務所に程近い寿町は東京都の山谷、大阪市のあいりん地区(釜ケ崎)と並ぶ、三大寄せ場のひとつとして知られている。ここには120もの簡易宿泊所が立ち並び、6000人近い人々が暮らしている。

 

 最大の問題は高齢化に伴う健康対策。吉野は言う。「僕たちはそこに出向き、健康体操や虫歯予防、熟睡できる睡眠指導を定期的に行っている。講師はウチのチームの管理栄養士やトレーナー、知り合いの歯科医などです」。健康面の改善こそが就労支援につながると彼は考えているのである。

 

 町クラブが復元する都会の人情。それは玉ちゃんが愛してやまない633ミリリットルビールのように、昭和の余韻に包まれている。

 

<この原稿は21年10月13日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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