近代五輪は1896年の第1回アテネ大会以来、基本的にうるう年に開催されてきたが、新型コロナウイルスの感染拡大により2020年に予定されていた東京夏季五輪は、1年後の21年に開催された。

 

 

 冬季五輪も92年までは夏季五輪と同年に開催されていたのだが冬季五輪は2年後の94年にリレハンメル(ノルウェー)で大会を行い、以降、五輪は夏と冬が2年おきに開催されるサイクルとなった。

 

 だが、コロナが全てを変えてしまった。夏の五輪が終わったばかりだというのに、年が明ければ冬の五輪だ。北京大会が2月4日に開幕する。

 

 五輪を国威発揚の一大イベントと位置付ける中国政府にとって、大会期間中、世界にアピールしたいのが「デジタル人民元」である。

 

 既に中国の中央銀行にあたる人民銀行の李波副総裁は「国民だけでなく、海外のアスリートや観光客も利用できるようにと考えている」と明言している。

 

 選手やIOC委員が選手村や競技会場でこれを使えば、当然、その映像が世界中に流れる。中国にとって、自国の決済システムの先進性をアピールする上で、五輪はこれ以上ない場となるだろう。

 

 来年2月の時点で、コロナが完全に収束しているとは思えない。それを中国政府は逆手にとって、こう宣伝するのではないか。

「スマホをかざすだけのデジタル通貨なら、ウイルスに感染するリスクは低い。どうぞ、これを使って買い物を楽しんでください」

 

 中国は「デジタル人民元」の実証実験を19年末から国内各都市で開始し、今年6月末の時点で、試用された金額は345億元(約5900億円)に達したと見られている。まさに国家事業だ。

 

 その背景には、ドル本位制で世界の金融システムを支配してきた米国に一撃を加えたい、との思いがあるのだろう。

 

 そううまくいくとは思えないが、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」を推進する上で、海外とのクロスボーダー決済システムの構築は急務。中国の計画は、どこまでも野心的である。

 

 こうした観点から見ても、「デジタル人民元」の五輪デビューは米国にとって愉快な話ではあるまい。

 

 そこで、“ぼったくり男爵”ことIOCトーマス・バッハ会長は、どう出るか。本来こうした「五輪の政治利用」に反対しなければならない立場なのに、習近平国家主席と気脈を通じ、「強国路線」の片棒を担いでいるように映る。穿ち過ぎか……。

 

<この原稿は2021年10月8日号『週刊漫画ゴラク』に掲載されたものです>

 


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