東京五輪直前、「大切なのは中国人だ」とのたまって波紋を呼んだご仁がいた。おそらくは単なるいい間違いだろうし、本当に彼が「中国人」を大切に思っているかはわからない。ただ、中国政府を大切に思っているらしいことは、最近になってよくわかった。あと、相変わらず何が何でも大会は開催するのだという五輪開催至上主義という点において、彼はまったくブレていない。

 

 ブレてるのは、むしろ周辺である。

 

 「朝食会場で絶対にこの男を追い詰める。東京で会いましょう」と森元首相の失言に息巻いたIOC委員のヘーリー・ウィッケンハイザーさん。「あなたには2語で十分。お黙りなさい」と高飛車に言い放ったEU議会委員のナタリー・ロワゾーさん。質問です。

 

 権力者によるアスリートに対する性犯罪は、言及する必要がないほどに微罪ですか?

 

 ほんの数カ月前、在日ドイツ大使館は「沈黙しないで」とツイッターに投稿しましたが、今回もわたしが知らないだけで、在中大使館のお仲間が辛辣なつぶやき、してるんですよね? 

 

 日本の政治家を叩いても、五輪が中止になることはない。返り血を浴びることもない。だから叩く。中国を相手だと、ちょっとヤバい。だから叩かない? 

 

 いやいや、人権先進国の皆さまに限って、まさか。

 

 仮に行方不明という問題が解決しても、性犯罪という過去は消えずに残るのですが、もちろん、これからも声をあげ続けていかれるんですよね?無事が確認されれば一件落着、なんてことはありませんよね?

 

 ま、ここまでの騒ぎになってしまった以上、あの告発自体がでっちあげ、あるいは成り済ましによるものだったという、IOCにも中国政府にも都合のいい結論が導き出されるのでは、という気もするのですが。

 

 さて、と。

 

 セレッソ大阪を皮切りに欧州2カ国などでもプレーした大久保嘉人がスパイクを壁にかけることになった。

 

 各国リーグでの通算得点は200点を超えている大久保だが、高校時代の彼は生粋のストライカーというより、極めて高い得点能力を持つ万能型選手、という印象が強い。将来は木村和司さんのような選手になるのでは、というのが当時のわたしの予想だった。

 

 だが、彼は年齢を重ねるに連れて得点力が衰えていく万能型の凡例に倣わなかった。むしろ、選手寿命としては晩年にさしかかりつつあった川崎F時代に、その得点能力を爆発的に開花させた感がある。

 

 つまり、彼は才能だけでゴールを量産したわけではなく、年齢を重ねてから得た知識、発想で新たな境地を拓いていった。

 

 どのポジションもそうだろうが、ストライカーの場合は特に、天賦の才が重視される部分がある。間違いではないのだろうが、しかし、それだけではないことを大久保のキャリアと成績は証明している。

 

 ただ、日本人らしからぬというか、得点を奪うためなら鬼にもなる大久保の気質は、世界の名だたるストライカーたちの標準装備でもある。ならば、早い段階で川崎Fの監督を務めていた風間八宏と出会っていたらどうなっていたか、本人がどう考えているかも興味がある。周囲が落ち着いたら、いずれじっくりと話を聞いてみたい。

 

<この原稿は21年11月25日付「スポーツニッポン」に掲載されています>


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