怜悧な御仁だということは、その話しぶりからもよくわかるが、いつも不機嫌そうで、およそ愛敬というものが感じられない。まるで鉄仮面のようだ。

 

 米国が来年2月に開幕する北京冬季五輪・パラリンピックの“外交ボイコット”を表明して以来、記者会見の場での中国外務省・趙立堅報道官の表情は、一層厳しさを増しているように感じられる。

 

「米国はスポーツに政治を持ち込むのはやめ、北京冬季五輪が傷つくような言動で干渉するのをやめるべきだ」(ロイター12月8日配信)

 

 スポーツに政治を持ち込むな、というのは全くその通りで異存はない。だからこそアスリートたちの祭典である五輪に外交使節団を派遣すべきではない、というのが私の持論だ。もちろん日本も例外ではない。そして、それは北京大会以降もずっと継続すべきだと考える。

 

 過去においてはスポーツに政治どころか軍事を持ち込んだ国もある。1964年10月、日本はアジアで初となる五輪(東京大会)に沸いていた。

 

 開催期間中の16日、日本を、いや世界を震撼させるニュースが飛び込んでくる。中国がタクラマカン砂漠で核実験を行ったのだ。そちらが「アジア初の五輪開催国」なら、こちらは「アジア初の核保有国」というアピールだった。

 

 この大会、台湾は「台湾 中華民国」という名称で参加している。開会式で台湾は国旗と定める「青天白日満地紅旗」を掲げて入場行進を行った。これに対する抗議の意味合いもあり、中国は東京五輪に参加しなかった。五輪開催期間中の核実験には意趣返しの側面もあったというのが定説だ。

 

 話を今回の北京大会に戻そう。47年前に核実験が行われたタクラマカン砂漠は新疆ウイグル自治区に属している。この地での人権侵害は海外の多くの人権団体やメディアの報告により、その詳細が明らかになりつつある。

 

 もし、五輪でそうした人権侵害に抗議する選手が現れた場合、中国政府は、そしてIOCはどう出るのか、という話は2週間前にも小欄で書いた。「中国政府も、さすがに強硬手段には訴えないでしょう」。多くの識者から、そんな感想をいただいた。

 

 その見方は甘いのではないか。これは登山家の野口健から聞いたものだが、チベット側のベースキャンプでエベレスト登頂を目指していた米国隊の隊員のかばんからフリーチベットと書かれた小旗が見つかった。その隊員は即座に連行され、国外に追放されたという。08年北京夏季五輪前の話だ。同じことが五輪選手の身に起きないと、誰が言えよう。

 

<この原稿は21年12月15日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


◎バックナンバーはこちらから