ポストシーズンゲーム真っただ中のプロ野球だが、メディアの主役は、この秋、北海道日本ハムの監督に就任したばかりの“ビッグボス”こと新庄剛志である。

 

 

<この原稿は2021年12月5日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

 

 このところワイドショーでビックボスの顔を見ない日はない。

 

 沖縄・国頭村で行われている秋季キャンプでは、伸び悩んでいる清宮幸太郎に「ちょっと痩せない?」と声をかけたことがニュースになっていた。「痩せたら飛ばなくなる」と困惑する清宮に「痩せた方がモテるよ」とささやくあたりが新庄らしい。

 

 メディアの調査・分析を行う「ニホンモニター」によると、監督就任会見から2日間のメディア露出効果は、広告費に換算すると104億9021万円。“新庄フィーバー”恐るべし、である。

 

 その新庄から「あっちゃん」と呼ばれているのが新GMの稲葉篤紀だ。新庄とは同じ1972年生まれだが、学年は稲葉の方がひとつ下だ。

 

 ファイターズが札幌に移転して初めてリーグ優勝、日本一を果たした06年、稲葉は主にライトを守り、ベストナインに輝いている。隣のセンターを守っていたのが新庄だ。

 

 秋季キャンプでは新監督の「打者を見てほしい。特に左打者を」という依頼を受け、野手の打撃指導に乗り出す一幕もあった。2人とも、まだ49歳。体が動くのが強みである。

 

 言うまでもなく新GMは、今夏の東京五輪の優勝監督である。侍ジャパンを率い、日本球界悲願の金メダルを獲得した。

 

 優勝後のインタビューでは「やり遂げた。自分の中で、ひとつの区切りがついた」と語っていた。

 

 チームのOBということもあり、多くのメディアが稲葉を“ポスト栗山英樹”の有力候補に挙げていた。しかし、フタを開けたら新庄監督。驚きの声を発した向きも少なくあるまい。かくいう私もそのひとりだ。

 

 目下のところ、話題はビッグボスに集中しているが、GMの重要性は監督に勝るとも劣らない。米メジャーリーグではGMがチームの編成権を一手に握る。ファイターズのGMも、日本ではメジャーリーグの職能に近い権限を与えられている。

 

 日本代表監督を4年間務めたことにより、稲葉の人脈は格段に増した。トレードやFAに関する交渉で、大きな力になるのは間違いない。

 

 さらにだ。稲葉を含め、五輪代表監督は、公開競技の1984年ロサンゼルス大会以降、8人いるが、松永怜一、山中正竹、そして稲葉の3人が法政大の出身者である。法政大人脈はアマチュアにも根を張っている。アマ情報には不自由しないはずだ。

 

 ところでビッグボスと球団との契約は、本人の意向もあって1年。「新球場のエスコンフィールド北海道が開業する23年のシーズンは新庄監督で迎えたい、というのが球団の本音」(球界関係者)だろうが、勝負の世界は“一寸先は闇”である。

 

 GMを実質2シーズン務めてから監督兼任となった東北楽天・石井一久の例もある。そう考えると、よく練られた、奥行きのある人事である。

 


◎バックナンバーはこちらから