コロナ下、“東京離れ”が加速しているというニュースを目にした。総務省が1月28日に公表した2021年の人口移動報告によると、23区内で初めて「転出超過」が確認された。要するに区外への転出者が転入者を上回ったのだ。都全体でも超過幅は過去最低を更新した。テレワークや在宅勤務の普及がその原因と見られている。

 

 翻ってこちらは「東京密集」と呼べるほどの一極集中ぶりである。今年1月にスタートしたラグビー国内新リーグの「リーグワン」だ。ディビジョン1に参加する10チームの中に「東京」を名乗るチームがシャイニングアークス東京ベイ浦安、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ、東京サンゴリアス、東芝ブレイブルーパス東京、ブラックラムズ東京(いずれも呼称)と5つも存在するのだ。

 

 活字メディアは字数の都合上、略称を用いることが多い。残念ながらコロナの影響で流れてしまったが、1月22日には味の素スタジアムで「BL東京」対「BR東京」の試合が組まれていた。前者は旧東芝、後者は旧リコーだが、コアなラグビーファンはともかく、BLやBRといった表記は新参のファンには、ハードルが高い。いや、私が知るラグビー関係者にも「BLってどこ? ああ東芝なんだ」と言って照れ笑いを浮かべた者がいた。中には未だに企業名を口にしている者もいる。何のための新リーグ、何のための新名称なのか。

 

 海の向こうに目を向けてみよう。サッカーのイングランド・プレミアリーグ1部(21~22シーズン)には首都ロンドンを本拠とするクラブが6つある。アーセナル、チェルシー、クリスタル・パレス、トッテナム・ホットスパー、ウェストハム・ユナイテッド、ブレントフォード。名称にロンドンを冠しているクラブはひとつもない。チーム名はトッテナムのように地区名を冠したものもあれば、アーセナルのように兵器工場に由来するものもある。エンブレムに描かれた大砲は、その名残だ。これが「ロンドンA」対「ロンドンT」では興趣に欠けることこの上ない。

 

 ここまでのリーグワンの試合内容は期待通り、いやそれ以上だ。海外のビッグネームの参戦もあって、前身のトップリーグに比べ、もう一段レベルが上がった印象を受ける。

 

 ピッチの熱量を市井の隅々にまで伝え広めるためには、新リーグが理念として掲げる「地元の結束、一体感の醸成」が欠かせない。そのためにも、まずは分かりやすい名称だ。覚えやすい呼称だ。そして目にとまる略称だ。工夫の余地あり、と考える。

 

<この原稿は22年2月2日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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