子どもたちに夢を与えたい――。アスリートや球団・クラブの関係者が判で押したように口にする言葉だが、スポーツは子どもたちだけのものではない。お年寄りにも希望を与えたい。誰か、そう言わないものかと期待していた矢先のヒット企画である。

 

 サッカーJ2レノファ山口がヘルスケア関連企業のケアプロと組み、高齢者の観戦支援に乗り出した。その背景には、全国的な高齢化率の高まりがある。

 

 日本人の平均寿命は男性81.56歳、女性87.71歳(2020年)。これはよく知られているが、こちらは、それほどでもない。70歳の平均余命は男性約16年、女性約20年。すなわち平均値として今70歳の男性は86歳、女性は90歳まで生きる計算になる。一言で言えば余生が長いのだ。夫婦で、あるいは子どもや孫とスポーツ観戦を楽しみたい、と考える高齢者は年々、増えている。

 

 とりわけ都会に比べて娯楽の少ない地方は、その傾向が顕著で、レノファは家族の来場割合がJリーグの中で最も高い。にもかかわらず60歳以上の来場割合はJリーグ平均以下の13.4%。これはスタジアムでの観戦環境に原因があるのではないか。そこで2月20日の開幕戦で実証実験を行ったところ、いくつもの課題が明るみに出た。

 

 まずは寒さ対策である。本州最西端の山口とはいえ、2月、3月は寒い。開幕戦では雪が舞った。「階段が濡れてくると滑りやすくなる。屋外のスタジアムだと気候による影響がダイレクトに出る。またスタジアムは火気が使えず、飲食ブースが外にしかないので、どうやって温かいものを届けるか。ペイン(障壁)が積み重なれば、高齢者の観戦への心理的ハードルも高くなる」(ケアプロ山﨑康平氏)

 

 ちなみに山口県の65歳以上の人口は全体の34.6%で全国3位。75歳以上の割合は全体の18.3%。高齢化対策に関しては“課題先進県”であり、レノファの取り組みは他のJクラブにとっても参考になるはずだ。

 

 また実証実験を通じて、次のような課題も浮かび上がってきた。「乳幼児や小さいお子さんをお持ちの観戦者の大変さがよくわかった。階段の昇り降りに加え、乳幼児の世話をしながらだとグッズや食べ物を簡単に買いに行けない。こうした観戦者にどういうサービスを提供できるかについても考えていきたい」(レノファ柴田勇樹取締役)

 

 山積する課題は、クラブが発展するための、“成長痛”のようなものか。2回目の実証実験は12日に行われる。

 

<この原稿は22年3月9日付『スポーツニッポン』に掲載されたものです>


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