松丸喜一郎(日本ライフル射撃協会会長)<後編>「オンラインとの親和性」

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伊藤数子: 昨年12月に開催されたオリパラミックス大会はオンライン開催でしたが、高校生の全国大会も一昨年からオンラインで実施されているそうですね。

松丸喜一郎: きっかけは新型コロナウイルスの影響で中止となった全国高校選手権の代替大会として開催したことでしたが、“うれしい誤算”もありました。

 

二宮清純: “うれしい誤算”とは?

松丸: 集合で開催した時よりも参加者が増えたことです。それまでは会場への移動が大変で、出場する選手が限られていました。オンラインの可能性を感じた大会でしたね。

 

二宮: 射撃は採点競技で、対戦相手と物理的に離れていても実施可能なため、オンラインと親和性が高いですよね。

松丸: その通りです。世界的にもオンラインを採用する動きが広がっています。IOC(国際オリンピック委員会)は昨年、5つの国際競技連盟とeスポーツ大会「オリンピックバーチャルシリーズ」を立ち上げました。身体運動を伴ったeスポーツを試験的に導入し、将来的にオリンピック種目として取り入れていこうと考えているそうです。

 

伊藤: 射撃はeスポーツとのコラボも考えていますか?

松丸: はい。eスポーツはシューティングゲームの人気も高い。そこに射撃競技のポテンシャルを感じます。eスポーツのように演出を加え、視覚的にも楽しめるようにすることで競技普及に繋がると考えています。今はゲーム会社と新たな射撃ゲーム開発にも取り組んでいます。

 

二宮: ケガのリスクが少ないことも競技普及のアピールポイントになりますね。

松丸: そう思います。日本では銃刀法の規制が厳しく、競技用の銃の所持に許可が必要で、年齢制限もあります。それが競技の普及には大きな壁となっているので、銃刀法に抵触しないビームライフル銃で、射撃競技の普及を図っていきたいと考えています。

 

二宮: ちなみに射撃をやるためのセットを買う場合、どのくらいかかりますか?

松丸: 標的とピストルとセットで15万円ぐらい。ちょっと高いんですよね。それなので、レンタルできる仕組みをつくろうと考えています。

 

 普及のポテンシャル

 

伊藤: 例えば学校帰りや仕事帰りにふらっと立ち寄れるダーツや、ボーリング場のようなものがあれば人気に火が付きそうですね。

松丸: そうです。我々としても常設の競技施設が増えていくことが理想です。レーザー光を受光するためには、太陽の光が入ってしまうとぶれてしまうので、ビームライフル射撃の施設は屋内に限られます。ですから体育館であれば、まったく問題ない。以前、足立区内の体育館で知的障害のある子どもたちの射撃体験会を開催したらとても好評でした。自治体と組み、体育館を借りての体験会開催を増やしていくことも視野に入れています。

 

二宮: 少子化で廃校になって使われなくなった校舎を再利用することもできますね。

松丸: そうですね。普及のポテンシャルは非常に高いと思います。

 

二宮: 松丸会長自身、大学時代に射撃部に所属していました。現役選手の時から競技普及のことを考えていたのでしょうか?

松丸: 競技者の時は競技に夢中だったので、日本ライフル射撃協会に携わる立場になってから、社会から見られる目を肌身で感じるようになりました。例えば日本陸上競技連盟に登録している会員数に対し、陸上に親しんでいる人たちの割合は1:100くらいです。水泳など愛好家の人数の割合が非常に多い競技がありますが、射撃競技は違います。協会に登録している会員の人数が、そのまま日本全国でライフル射撃を親しんでいる数になります。つまり会員たちがいなくなった時点で日本からライフル射撃競技が消滅してしまいます。そうした危機感が積極的に競技の魅力を発信していこうと思う動機になりました。

 

二宮: 銃を構え、狙いを定めて、引き金を引くという射撃に必要な動作は、脳を活性化させるとおっしゃっていましたが、リハビリとしても使えそうですね。

松丸: はい。コロナ禍のため実現できていませんが、高齢者施設での体験会開催も進めているところです。以前、ある大学医学部の先生と調べたのですが、高校生の部活動における練習前と後の脳の反応速度を測るテスト結果に興味深いデータが表れました。射撃部の部員とサッカーやバスケットボールの部員を比較したところ、身体を動かす競技の部員は練習前と比べて練習後は反応速度が遅くなる。一方、射撃部員はフィジカル的に疲れていても、反応速度は速くなったんです。この点は我々が射撃競技を世にアピールする格好の材料になると思っています。

 

伊藤: 部活動で頭が冴えた後、帰宅後の勉強もはかどるでしょうね。

二宮: 銃だけに脳を活性化するトリガーになるわけですね。

松丸: おっしゃる通り(笑)。射撃は脳の活性化に加え、集中力を高める効果もあります。長く競技を続けられることも特徴で、健康寿命の延伸にも役立ちます。今後は射撃が誰もが楽しめる共生スポーツだということを、もっとアピールしていきたい。日本の社会課題解決に我々が射撃競技を通じて貢献していきたいと考えています。

 

(おわり)

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松丸喜一郎(まつまる・きいちろう)プロフィール>

公益社団法人日本ライフル射撃協会会長。1954年、東京都出身。1977年、慶應義塾大学卒業。大学時代は射撃部で活躍。 慶應義塾高校ライフル射撃部監督時代には関東大会優勝、全国学生大会優勝選手を育成した。2012年ロンドンオリンピック日本代表選手団本部役員、2013年第27回ユニバーシアード競技大会の日本代表選手団総監督を務めた。2017年、日本ライフル射撃協会会長に就任。ライフル射撃競技の普及を図り、健康寿命の延伸や共生社会実現に積極的に取り組んでいる。また2019年からの2年間、日本オリンピック委員会(JOC)副会長も兼務した。

 

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NPO法人STAND代表の伊藤数子さんと二宮清純が探る新たなスポーツの地平線にご期待ください。

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