「自分たちには戻るべき場所があった」。ラグビー・トップリーグのMS杯を制したサントリー清宮克幸監督のコメントだ。「流れが悪くなったら、そこに戻るというゲームプラン。まずチャレンジする。うまくいかない。ならば戻ればいい。ラグビーは必然の競技。たまたまDFがズレたというのではなく、相手にとって“どうしようもないな”という状態をつくり出す。それをやり続ける。スクラム、モール、ラインアウト…。全てにおいて我々には“戻るべき場所”があったということです」

 勝負を決めたWTB小野沢宏時の逆転トライはラインアウトのサインプレーから生まれた。サントリーが有する数あるセットプレーのカードのうちの一枚。殊勲の小野沢は言った。「このパターンのときに相手はどういう傾向にあるか、みんな分かっていた」

 戻るべき場所――競技の違いはあるだろうが、今のサッカー日本代表に求められているものもこれではないか。「流れの中で点が取れない」。よく、こんな声を耳にする。

 確かに流れの中で点が取れることに越したことはない。しかし相手の長所を潰し合うW杯予選やタイトルのかかったゲームにおいて、それは極めて難しい。むしろ偶然に任せず、徹底してセットプレーに磨きをかけてもいいのではないか。たとえロマンのかけらもないと言われようとも。

 参考までに紹介すればW杯の出場チーム数が32、試合数が64の現行制度になって以降、得点は171(98年フランス)、161(02年日韓)、147(06年ドイツ)と大会のたびに減少しているのである。そして、このうち、フランス大会では約4割、日韓大会では約3割の得点がセットプレーから生まれた。ならばこれを磨くのが得策だろう。

 幸い、岡田武史監督はセットプレーに関して創造的なアイデアと豊富なバリエーションを持っている。それを具現化する上で球際の強さやフィジカル面の充実が前提になることは言うまでもないが、この期に及んで何よりも大切なのは「選択と集中」だろう。流れの中で点が取れればラッキーだ、くらいの割りきりが必要となる。セットプレーで取ろうが流れの中で取ろうが、1点は1点なのだから。

<この原稿は08年3月5日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

◎バックナンバーはこちらから