中日・落合博満監督の“悪運”には恐れ入る。クライマックスシリーズ負けなしの5連勝で日本シリーズ出場を決めた。リーグ優勝を逃したチームが日本シリーズに出場するのは長いプロ野球の歴史の中で初めてのことだ。

 周知のように落合監督は当初、クライマックスシリーズの導入には反対だった。
「1年間、戦ってきたペナントレースの意味はどうなるのか」。チャンピオンチームへの配慮が東京ドームでの胴上げを控えさせたのかもしれない。
 もしクライマックスシリーズの余勢を駆って日本ハムを倒せば、中日は1954年以来の日本一ということになる。自らが反対した制度に支えられての悲願達成――これ以上の皮肉はあるまい。

 私には既視感がある。あれは今から15年前のことだ。プロ野球選手会はFA制導入に向けて動いていた。当時の選手会会長は現阪神監督の岡田彰布だ。
 FA制導入を最大の運動目標に揚げた選手会執行部に対し、当時、中日の選手だった落合は「統一契約書そのものの見直しを優先するべき」と迫った。「FAよりも、まず先にやらなければならないことがある」「仮に制度が導入されてもオレはFA権を行使しない」。そこまで言い切り、ついには選手会を脱会した。当時、最高給取りだった落合の脱会は選手会に大きな衝撃を与えた。

 ところが、である。FA制が導入されるや、すぐさまFA権を行使し、巨人へと移籍した。年俸は中日時代の2億5000万円から3億8000万円へとハネ上がった。FA制導入に最後まで反対し、選手会まで脱会した男が新制度の最大の受益者になるとは…。

 先述したように中日は54年を最後に、半世紀以上も日本一から遠ざかっている。目下、日本シリーズは6連敗中。あるマスドラ(マスコミ・ドラゴンズ)会のメンバーがこう語っていた。「(54年の日本一のMVPの)杉下茂さんが言ってました。“自分が生きている間に、もう日本一は見られないんじゃないか”って…」

 案外、今年はチャンスかもしれない。選手たちは「一度は死んだ身」である。かつてほどのプレッシャーはあるまい。さらにはクライマックスシリーズ5連勝と勢いに乗っている。またしても落合監督は新制度の最大の受益者になるのか…。

<この原稿は07年10月24日付『スポーツニッポン』に掲載されています>

◎バックナンバーはこちらから