試合直前、スタンドから歓声があがった。9月23日、愛媛県総合運動公園、J2第41節、愛媛FC対アビスパ福岡戦。「伊予銀行サンクスデー」と銘打って行われた試合で、巨大なユニホームがピッチ上に登場したのだ。昨年に引き続いて行われたこのイベントの模様を今回はレポートしたい。

(写真:試合前、ピッチに現れたジャンボユニホーム)
 愛媛FCはJ2昇格した昨シーズンより、ホームゲームでマッチスポンサーを募り、さまざまなイベントを行っている。愛媛FC協賛スポンサーの伊予銀行にも昨春、マッチスポンサーの打診があった。試合を盛り上げ、かつ伊予銀行らしさをアピールするには、どんな内容にすればよいか。サッカー好きの行員が集まり、早速プロジェクトチームが発足した。

「観客全員にオレンジのTシャツを配り、スタンドを染めよう」
「もっと目立つものをみんなで掲げては?」 
 春先から何度もミーティングを行う中で、いろいろなアイデアが出された。季節が夏に変わるころ、ようやく構想が固まった。
「ジャンボユニホームをピッチで広げよう」
 ヒントはスタンドで広げられる大きな横断幕だった。急ピッチで製作を行い、なんとか当日に間に合った。

 2006年9月16日、東京ヴェルディ1969戦。試合前のセレモニーでいよいよジャンボユニホームお披露目の時がきた。縦10メートル、横14メートルの巨大なユニホームがセンターサークルで広げられると、観客からは感嘆の声と大きな拍手があがった。スタンドでも、この日のために用意されたオリジナルタオルが配られ、スタジアムは愛媛FCカラーのオレンジ一色になった。カクテル光線に照らされた緑の芝にオレンジがよく映えていた。

 イベント以降、チームは好調

「今年も昨年好評だったジャンボユニホームの活用を中心にイベントを考えました」
 今シーズンの「伊予銀行サンクスデー」を担当した地域振興部の福嶋康博さんはこう振り返る。昨年の反省点は2つあった。1つはユニホームの広げ方。ぶっつけ本番でピッチ上にそのまま広げたため、胸のところに記した「がんばれ!EHIME FC」の文字をアピールすることができなかった。今年はそれが見えるようメインスタンド方向に傾けて掲げるように改善した。

 もう1つは試合中、目立った活用ができなかった点だ。そこで今年は、観戦にやってきた約1000人の行員と家族の協力を得て、試合中にスタンドでジャンボユニホームを広げ、選手たちを励ました。そのかいがあったのか、愛媛FCは上位の福岡相手に粘り強い戦いをみせた。前半に1点を先制されるも、25分、相手のこぼれ球を奪ってMF・江後賢一のゴールで同点に追いつく。
(写真:スタンドで揺れるジャンボユニホーム)

 その後、再び1点を勝ち越されたが、後半5分、今季途中加入した助っ人、ジョジマールが魅せる。FW・内村圭宏が出したグラウンダーのパスにタイミングよくあわせ、鮮やかな同点ゴール。直後に福岡のFW・アレックスにミドルシュートを決められたものの、今度は後半41分、FW・三木良太がヘッドでゴールネットを揺らした。アシストしたのは地元出身のMF・青野大介。3度リードを許しながら、いずれも追いつく展開で愛媛は3−3のドローに持ち込んだ。

「ジャンボユニホームでの応援が、何かのきっかけになったのなら、うれしいですね」
 福嶋さんが語るように、愛媛は「伊予銀行サンクスデー」での引き分けを契機にチーム状態が上がってきた。続く一戦でJ1昇格争いをしているベガルタ仙台をアウェーで撃破すると、ここまでクラブ初の3連勝。2年目のジンクスに苦しんでいた愛媛が、ようやく持ち味を発揮しつつある。

 地元クラブへの応援は地域貢献

 昨年に引き続いてサポーターに配布したオリジナルタオルも好評だった。
「昨年のタオルもずっと応援に使っていただいているようだったので、今年は形状を細長くしてタオルマフラーにも使えるようにしました。」
 狙いどおり、配られたタオルは多くの観客の首に巻かれ、スタジアムのあちこちでオレンジ色が輝いた。
(写真:デザインも練られたオリジナルタオル)




「愛媛FCは愛媛県全体をホームタウンに指定しているように、すべての県民が支えるクラブだと思っています。もちろんプロである以上、結果が求められます。勝つためには地元選手ばかり揃えるわけにもいかないでしょう。その点で地元とのつながりが薄くなる分、愛媛のみなさんに、より愛される存在を目指してほしいですね。地域に愛されるクラブを応援することが、私たちが目指す地域貢献へとつながるのですから」

 今後の愛媛FCに期待を寄せる福嶋さんは来年以降も「伊予銀行サンクスデー」は続けていきたいと話す。次なる目標は、もっと観客に楽しんでもらえるイベントにレベルアップさせること。そのためには多くの人にサンクスデーをPRし、競技場に足を運んでもらうことが必要だと考えている。

 地域に根ざした企業による、地元クラブのための、愛されるイベントへ――。早くも来年に向けて、ホイッスルは鳴っている。


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