9月7日、女子ソフトボールの日本女子リーグ2部の後半戦(第4、5節)が始まった。伊予銀行女子ソフトボール部は第4節を3勝1敗とし、好スタートを切った。2年ぶりの1部復帰を目指し、今シーズンに挑んだ伊予銀行。しかし、前半戦(第1〜3節)は4勝5敗と負け越し、苦しい状況が続いた。果たして後半戦までの約3カ月間、どのようにチームの立て直しを図ったのか。大国香奈子監督に訊いた。

 前半戦を振り返って「体力のなさを痛感した」という大国監督はこの夏場、特に若手選手の体づくりを最重要テーマに練習を行った。主に米国で活動しているトレーナーを紹介してもらい、6月中旬からは月に一度の帰国の際にトレーニングの指導を受けている。
「まだ完璧ではありませんが、選手たちの体はこの短期間で随分と鍛えられました。いつも疲労がたまる夏場には足首を痛める選手が必ず出るのに、今年は一人もいません」と大国監督はトレーニングの効果について語った。後半戦に入って好調なのは、資本の体がしっかりとつくられてきたからにほかならない。
(写真:後半戦に手応えを感じているという大国香奈子監督)

 さて、大国監督が後半戦のキーマンにあげていたのが高本ひとみ投手だ。高本投手はリリーフ登板した4月22日のYKK戦で審判にイリーガルピッチングを指摘されて以来、思いっきり投げることができなくなってしまっていた。結局、前半戦は自分の投球を取り戻すことができないまま終わった。しかし、監督が予想した通り、リーグ戦から一度離れたことで高本は本来のピッチングを取り戻したようだ。

「高本の調整はうまくいっていますよ。トレーニングのおかげで、体もいい具合に絞れています。国体予選や後半戦に入ってもイリーガルピッチングをとられたことは一度もありませんので、今では自信をもって投げられています」と大国監督。エースの坂田那己子投手がヒザの故障で戦線離脱している今、高本投手が投手陣の柱だ。それだけに彼女の復調はチームに勢いをもたらしている。

 伊予銀行は後半戦に入り、3勝1敗。4試合ともに接戦で引き締まった試合となった。自分たちのミスから自滅することが少なくなかった前半戦の反省を踏まえ、選手一人一人が守備の重要性を再認識したことが大きいようだ。
「後半戦に入って、何度も満塁というピンチはあったんです。でも、バックがしっかりと守ってくれて、取られても最小にとどめられている。だからこそ、攻撃にもいいリズムで移ることができ、前半戦の課題だった先取点を奪うことができているんです」と大国監督は後半戦の勝因を語った。

 新人投手に芽生えた自覚と責任

 また、若手選手の成長も著しい。なかでも、新人の外山裕美子投手は後半戦2試合目、8日のカネボウ化粧品小田原戦で初先発ながら、見事7回を投げ切り白星を飾った。最初から完投しようなどとは全く考えていなかったという外山投手。「とにかく、1回1回集中して抑えよう」。完投はその結果、もたらされたものだった。

 社会人として初先発初完投を成し遂げたのだから、喜びもひとしおだろうと試合の感想を訊ねると、意外な答えが返ってきた。
「完投できたことは自信にはなりました。でも、初回は思うようなところにボールがいかず、四球を与えてピンチを招いてしまった。結果的には失点しませんでしたが、自分にとっては反省点として一番強く印象に残っています」

 まだ幼さが残るあどけない声の中にも、社会人、ソフトボール選手としての自覚と責任が十分に聞いてとれた。それは日常生活の面からもうかがい知れる。実は、彼女は野菜が大の苦手。高校時代にも周囲から注意されてはきたが、それでも克服することはできなかった。しかし、伊予銀行に入行し、高校時代とは比較にならないほどの練習のハードさとレベルの高さを目の当たりにしたことで「体力がなければやっていけいない」ことを痛感。また、監督や先輩からも厳しく注意され、泣きながらも食べるようになった。「今では泣かずに、なんとか飲み込めるようになった(笑)」と外山投手。そのおかげで高校時代は夏バテで貧血を起こすことも少なくなかったが、今年は一度もなかったという。

 こうした食事面での努力は、練習に取り組む姿勢においても好影響をもたらしているようだ。
「高校時代は少ししんどくなると、もう声も出なかった。でも、今は先輩たちに何とかついていかないといけない、という気持ちが強いので、自分から声を出したりと、しんどくてもそこからもう一歩踏み出すようになりました」(外山投手)

「彼女はマウンド度胸がよく、インコースにズバッと投げられるコントロールをもっている。今後は変化球も覚えて投球の幅を広げることも必要ですが、今はとにかく体力をもっとつけなければいけません。カネボウ化粧品小田原戦でそのことをより自覚したのではないでしょうか。完投したとはいえ、最後の2イニングはボロボロでしたから」と大国監督。厳しい言葉の端々に外山投手への期待の大きさが垣間見えた。

 リーグ戦も残すところ、最終節の4試合のみとなった。もちろん、大国監督の頭には全勝しかない。そのためにも最終節の前に行われる「秋田わか杉国体」は重要な大会だという。1回戦の相手は大学生と社会人で混成された宮城県。愛媛県は伊予銀行のメンバーで固められているだけに、大国監督も「勝って当然の相手」と自信を覗かせている。順当にいけば、2回戦では優勝候補の筆頭にあげられている東京都と対戦する。ここが最大の勝負どころだと大国監督は言う。
「東京都は昨年度の1部リーグで3位のレオパレス21のメンバーで構成された強豪チームです。その東京都相手に、うちがどんなゲームをするのか。リーグ戦への勢いをつけるためにも、そこでしっかりとした試合をしたいと思っています」

 自信は勢いを生む。若いチームであればなおさらだ。この秋にどれだけ実績を積み上げられるか――。伊予銀行の戦いはまだまだ続く。


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