愛媛と年間王者を争ったリーグチャンピオンシップは2連勝。前後期連覇のアドバンテージ(1勝分)を加えて、一気に地元で優勝を決めることができました。初戦の塚本浩二、2戦目の松尾晃雅と両先発が大一番に合わせて、きっちり調整し、ゲームをつくってくれました。

 この1年の勝因は何か。ひとつはシーズン前に掲げた「守りの野球」が実践できたからでしょう。チャンピオンシップ2試合18イニングでの失点はわずかに1。これなら負けることはありません。投手を含めたディフェンス力が最後に間違いなくモノをいいました。

 もうひとつは「1つでも前の塁を狙う」。この点は、柳田聖人コーチが春から選手たちに意識付けをしてきた成果が出ました。柳田コーチは体調不良のため、シーズン途中でチームを離れてしまいましたが、選手はよくやってくれたと思います。

 柳田コーチに代わり、シーズン終盤は僕がサードコーチャーを務めることになりました。走者を止めるべきか、進めるべきか。得点に直結するだけにその難しさを痛感する日々です。
 チャンピオンシップ第1戦の初回、丈武のヒットで二塁走者・堂上隼人を思い切って本塁に突っ込ませました。ところがセンターからの返球に堂上はあえなくタッチアウト。「しまった!」 重要な初戦の立ち上がり、ワンプレーがゲームどころかチャンピオンシップ全体の流れを左右する場面です。僕は判断ミスを悔やみました。

 続くブライスの打球もレフトへ抜けます。「今度は無理だ」。二塁走者・丈武を三塁で止めようとしました。ところが丈武はトップスピードで制止を振り切り、一気に本塁へ。送球がそれ、貴重な3点目が入りました。ただ、ストライク返球なら当然タッチアウトのケースです。止めるならもっと早く指示を出すべきだった。再び反省しました。ランナーコーチの役割を通して、野球を改めて勉強させてもらっています。

 本職のピッチャーに話を戻すと、チャンピオンシップで好投したサブマリン・塚本の成長が光ります。まず、球速がアップしました。そして投手の生命線であるアウトローにきっちりとボールが投げられるようになりました。暑い夏場、下半身をしっかりと鍛えて、ボールを体の前で放るように鍛えた結果です。フェニックス・リーグでもNPB相手に、いいピッチングをしていますし、夢が近づいてきたのではないでしょうか。

 サブマリンといえば千葉ロッテの渡辺俊介ですが、彼に匹敵する将来性が塚本にはあるとみています。更なる飛躍のためには、2つの課題をクリアすることが必要です。ひとつはシンカー系のボールを完璧にマスターすること。現状はそれを投げるときだけフォームが崩れるため、球種が見破られています。他のボールと同様に放れるように修正できれば、下から浮き上がってストンと沈む変化球はまさに伝家の宝刀です。NPBのバッターも簡単には打てないでしょう。

 もうひとつは緩急をつけること。夏場に球速がアップして塚本の直球は120キロ台後半が出るようになりました。それだけに100キロに満たないスローカーブで緩急の差をつければ、タイミングはさらに取りづらくなります。塚本はカーブをいい武器にしているだけに、腕を振りつつもスピードを抜く投げ方を早く身につけてほしいものです。

 20日からは北信越BCリーグチャンピオンとのグランドチャンピオンシップが始まります。対戦相手の石川ミリオンスターズにはヤクルト時代の先輩、金森栄治監督がいますから再会が楽しみです。いずれにしても香川にとって、このメンバーで行う最後の試合になります。ドラフト指名を受けてNPBに行く者、力足りずチームを去る者、それぞれの心に残るシリーズにしたいですね。

 リーグチャンピオンシップと同じく、先発は松尾と塚本に任せます。本人には既に登板日も伝えました。今年1年間やってきたとおり調整してくれれば、いい結果が出るでしょう。僕もピッチングコーチとして、サードコーチャーとして、選手たちとともに野球を堪能したいと思っています。

塚本浩二
 1982年1月18日、大阪府出身。右投右打。豊中高から神戸大、ワイテックを経て、昨年より香川へ。アンダースローから直球、カーブ、シンカーを投げ込む。今季は先発、中継ぎにフル回転して33試合に登板。10勝2敗、防御率1.92の好成績を残した。

加藤博人(かとう・ひろと)プロフィール>:香川オリーブガイナーズコーチ
 1969年4月29日、千葉県出身。87年ドラフト外で八千代松陰高からヤクルトに入団。2年目の89年に6勝9敗、防御率2.83(リーグ8位)の成績を挙げて一軍に定着。故障で戦列を離れた年もあったが、貴重な中継ぎサウスポーとして95年、97年のチームの日本一に貢献した。分かっていても打てないと評された大きく曲がり落ちるカーブが武器。01年に近鉄に移籍後、02年には台湾でもプレーした。日本球界での通算成績は27勝38敗、防御率3.85。05年にスタートした四国アイランドリーグで香川のコーチに就任。現役時代に当時の野村克也監督から学んだ“野村ノート”や自らの故障経験を活かした丁寧な指導で高い評価を受けている。

★携帯サイト「二宮清純.com」では、独立リーグのコラムコーナーを更新中です。題して「四国&北信越独立リーグ紀行」。四国アイランドリーグ、北信越BCリーグの監督、コーチ、選手が毎週火曜日に交代で登場し、それぞれの今をレポートします。
 今回は加藤コーチのコラムです。古田さんと編み出した魔球。ぜひ携帯サイトもあわせてお楽しみください。


太陽石油はアイランドリーグのオフィシャルスポンサーです[/color][/size]
◎バックナンバーはこちらから