「監督の私はどうなっても構いません。明日を夢見る若者たちをどうか救ってやってください」
 9月30日、松山・坊っちゃんスタジアムでの最終戦。僕はファンのみなさんの前で、こんな挨拶をさせてもらいました。そのとき、高知は経営難で球団消滅の危機に直面していたのです。

「ファイティングドッグスをなくすな!」
 高知はもちろん、四国内の大勢のファンの方が存続のために力を貸していただきました。その結果、新しいオーナーやメインスポンサーが決まり、新生・高知ファイティングドッグスとしてチームは新しいスタートを切ろうとしています。僕の願いであった若者たちが野球を続ける場所は残されたわけです。

 そして――。「どうなっても構わない」と発言した通り、僕は3年間の監督生活にピリオドを打ちます。ユニホームを着れば、それを脱ぐときはいつかやってくるものです。選手には「だからこそ悔いのないよう1日1日、充実した日々にしよう」と日頃から言ってきました。それは自分自身に対する言葉でもあります。この3年間、自分のできることは全力でやってきたつもりです。

 振り返ってみれば、高知にきてからはあっという間でした。なにしろ独立リーグは日本で初の試みです。マニュアルも何もありません。すべてが手探りのスタートでした。四国に来て一番に心がけたのは「NPBと同じ感覚で物事を考えてはいけない」ということ。練習場の手配、試合の運営、チケットの販売……。誰かがやってくれる、ではダメです。まずは自分が動こう。そう思いながら監督を始めました。

 地域密着の活動も大切な僕の仕事です。土佐弁も勉強しました。坂本龍馬の扮装をしたこともあります。別に僕はみなさんから監督と呼ばれたいがために監督をしているのではありません。ユニホームでなく麦わら帽子をかぶって高知の街を自転車でまわっても、ファイティングドッグスの話題が自然と聞こえてくる。そんなチームを目指したいと考えていました。

 選手に対しても、1人1人の心の中をのぞいてみたいと思いました。彼らは決して順風満帆でここまで来たわけではありません。見た目はしっかりしているようで、心は優しい子ばかりです。褒めたり、怒ったり、引きつけたり、突き放したり……。それぞれの選手とともに汗を流し、将来を語り合いながら、僕も多くのことを学びました。

 高知での3シーズンは予想以上に素晴らしいものでした。1年目は初代チャンピオンに輝き、1700人のみなさんの前で胴上げしてもらいました。2年目は角中勝也を千葉ロッテに送り込むことができました。今年は残念な結果に終わりましたが、初心に戻って来季への戦いはもう始まっています。

 最後に選手とファンのみなさんに伝えたいことがあります。
<選手へ>
 3年間、ご苦労様。そしてありがとう。支えてくれる人たちのおかげで、高知にチームが残った。来年からは福岡や長崎でも野球ができる。そのことを忘れないでほしい。いつも言っていたように、たとえユニホームを脱ぐことになっても後悔だけはしてほしくない。納得いくまで上を目指せ! 0.1%でも可能性がある限り。

<ファンのみなさんへ>
 高知にやってきたとき、自分がここまでできるとはまったく思っていませんでした。みなさんの応援、さまざまなサポートなくして、今の僕も、チームも存在しなかったでしょう。今回の騒動で、あらためてファイティングドッグスが地域に根付いた存在になったと実感できました。高知ファイティングドッグスは、どこにも負けない“おらがチーム”です。その誇りを持って、これからも球団を支えてやってください。よろしくお願いします。
 
 四国で出会ったすべての人に感謝します。3年間、ありがとうございました!


藤城和明(ふじしろ・かずあき)プロフィール>: 高知ファイティングドッグス監督
 1956年4月5日、兵庫県出身。150キロ近い剛速球を武器にした本格派右腕として、市立琴丘高から新日鉄広畑へ進み、77年のドラフト1位で巨人に入団。82年に阪急へ移籍。86年、ロッテで現役を終えた。引退後は歌手デビューして注目を集める。93年より5年間、巨人の2軍投手コーチを務め、98年には韓国・三星ライオンズ投手コーチも経験した。現役時代の通算成績は101試合14勝19敗、防御率4.51。05年の四国アイランドリーグ創設に伴い、高知の監督に就任。このほど07年限りでの退団が決定した。


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