二宮: 今季のセ・リーグは混戦模様です。どのチームにも優勝のチャンスがあると言っていいでしょう。
中西: チャンスがあるだけに、継投をいかにうまくやっていくか。野球は何といってもピッチャーですから、ここが優勝できるかどうかのポイントになってくるでしょう。早め早めに継投を仕掛けられるようにしたいと考えています。
(撮影:加藤潔)
二宮: ピッチャーの状態を見極めて、和田豊監督にも早めの交代を進言すると?
中西: 神頼みでピッチャーを引っ張っても、いい結果が出ないことが多いんです。スケベ心は良くない。迷ったら代えた方がいい。ブルペンにも、そういう準備をさせています。たとえば巨人の阿部慎之助に対して、「左で行くから合わせといてくれ」と事前に伝えておく。そこに心身ともにピークが来るように指示を出しています。継投のタイミングが遅れてしまうと、出て行くピッチャーもテンションが下がってしまうんです。ひとりでも交代がズレると、その後のブルペンの計算が全部狂ってしまいます。

二宮: 継投は守りの作戦ですが、いいピッチャーを先につぎこんで攻めに転じるわけですね。
中西: その通りです。一番難しいのはイニング途中のスイッチです。防御、防御で受け身に回ったら絶対にうまくいかない。早めにピンチを断ち切っておけば、次のイニング以降、回の頭、頭で新しいピッチャーを投入できる。思い切って代えて打たれたら、ピッチャーを預かる僕の責任。そう考えています。

二宮: 監督やコーチの方針が明確だとピッチャーも準備しやすくなりますね。
中西: 継投のタイミングがずれると、選手も「本当はオレの出番じゃなかったのに……」と言い訳をしてしまう。それをさせてはいけないんです。こちらが出番と役割をしっかり示してやることで、選手に責任を持って準備してもらえるように心がけています。

 リリーフは15球以内で準備を

二宮: 中継ぎピッチャーの準備はどのように始めさせるのでしょうか。イニングが進むに応じて? それとも状況を見て?
中西: 状況に合わせます。先発が良ければ、終盤までブルペンは動かしません。チームによっては3回に2人ブルペンへ入れて、5回になったら、また2人……という準備をさせているところもありますね。でも、これはピッチャーが疲れるだけでナンセンスだと思います。これが143試合続いたら、ピッチャーにはかなりの負担になるでしょう。ブルペンでのピッチング練習も試合で投げるためのウォーミングアップですから、余計に放らせる必要はない。選手には「15球以内でつくってくれ」と話をしています。藤川球児(現カブス)は11球で準備完了していましたよ。

二宮: リリーフで長持ちする選手は、消耗が少なくなるよう工夫をしているわけですね。
中西: 球児はブルペンで投げる球数が少ない分、キャッチボールを念入りにしたり、自分なりのパターンをしっかりと持っていました。どの球種を何球投げてという順番も決めているんです。

二宮: 交代で出ていくピッチャーには、どんなアドバイスを?
中西: 細かいことは言いません。単刀直入に状況を説明して、1球目で気をつけることを話します。ピッチャーは代わりっぱなが一番危ない。交代直後の1球目にカーンとやられるのだけは避けないといけないことです。ピッチャーが一番難しいのは初球と、追い込んでからの決め球ですから。

二宮: 長いシーズン、予期せぬ故障や、不調の選手が出て台所事情が苦しくなることもあるでしょう。胃が痛いこともあるのでは?
中西: まぁ、最初から、いろいろあるのは覚悟していますよ。いるメンバーでやりくりしていくしかない。どうしようもなくなったら、酒飲んで風呂入って寝る(笑)。その方がいいアイデアがひらめくこともあるんで(笑)。

二宮: 高知の人はお酒好きも多い。晩酌は毎晩?
中西: ほぼ毎日です。翌日に残らない程度に(笑)。

 高知県人はクローザー向き!?

二宮: 阪神ファンは熱狂的ですから、ピッチャーが良くないと、コーチに対するスタンドからの声も厳しいでしょう?
中西: 当然、そうなりますよ。甲子園なんかスタンドからキツいヤジが飛んでくる。継投が遅れたら、「何やっとるんじゃ、バカヤロー!!」とか「とっくの昔に交代や!」。逆に交代したピッチャーが打たれたら、「なんで代えるねん!」と……。

二宮: 結果が悪いと、どちらでもヤジられる……。ファンにはベンチの事情がわからない部分もあるでしょうからね。
中西: たとえば若いピッチャーが好投したとします。こちらとしては、いい状態で次の登板に備えてほしい。もう1イニング延ばして打たれたら、せっかく良かった部分が無になってしまうんです。だから、まだ投げられそうでも早めに代える。そういう育成のための起用法もあるんです。

二宮: いくら良い内容でも、こうなったら代え時という兆候も投手コーチは把握していますよね。
中西: 具体的な名前は出せませんが、ボールが上ずってきたり、変化球が抜けてきたり、肩を廻したり、屈伸したり、ベンチをチラチラ見たり、いろいろシグナルはあります。周囲から見れば、「なんで、ここで交代やねん」と思われるかもしれませんが、こちらには“代えてくれ”というサインが出ている。これは選手によって、それぞれ違いがありますから、ちょっとした変化を見逃さないようにしていますね。

二宮: 先発ピッチャーに関してはブルペンの段階で今日の調子がわかります。それを踏まえて継投のプランを練り直すこともありますか。
中西: それはありますよ。今日は体が重そうで良くないなと感じたら、リリーフを早めに準備させておく場合もあります。

二宮: 野球はピッチャーが点を取られなければ負けることはない。そう考えると投手コーチは責任重大なポジションですね。
中西: まぁ、どのコーチも大変でしょうけどね。僕はコーチに大切なのは覚悟だと考えています。投手起用にしろ、育成にしろ、どこまで覚悟を持って臨めるか。これと決めたら、腹をくくることが必要でしょうね。

二宮: 最後に、以前から不思議に思ってきたことがあります。高知県出身のピッチャーは抑えタイプが多い。江本孟紀さんしかり、鹿取義隆さんしかり、中西さんしかり、藤川投手しかり……。これはなぜでしょうね。
中西: 高知県人は短期集中型なんですよ。裏を返せば継続力がない(笑)。短いイニングの方が力を発揮できるんでしょう。地形的にも太平洋に面して後ろは山。台風を受け止める場所にありますから、ピンチになってもドーンと構える気質を持っているのかもしません。

二宮: それはおもしろい(笑)。県民性が抑えに適した性格だと?
中西: 坂本竜馬がそうだったように、後ろは振り向かず、前だけを見ている。夜においしいお酒を飲むために、この1日を一生懸命頑張る。5年先、10年先を見据えてコツコツやるタイプじゃないんですよ(笑)。

(おわり)
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中西清起(なかにし・きよおき)プロフィール>
1962年4月26日、高知県宿毛市出身。高知商高時代は甲子園に4度出場。3年春はエースとして全国制覇を果たす。社会人のリッカーを経て、ドラフト1位で84年に阪神に入団。2年目の85年にはリーグ最多の63試合に登板し、11勝3敗19セーブの成績でリーグ制覇、日本一に貢献。最優秀救援投手のタイトルを獲得する。その後は先発に転向し、89年に10勝をあげると、90年には開幕投手に。96年限りで引退後は解説者を務め、04年から投手コーチとして古巣に復帰する。高校の後輩である藤川球児(現カブス)をはじめ、強力リリーフ陣の整備に尽力し、09年からは2軍を担当。13年から再び1軍コーチとなった。現役時代の通算成績は477試合、63勝74敗75セーブ、防御率4.21。



(構成:石田洋之)


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