第66回「得意、苦手、できないの枠を超えて、みんなで一緒にスポーツを」
誰もが一生涯スポーツに親しみ、そして楽しむ。これは簡単なようで、すごく難しいことだと常々感じています。
「サッカーが好き」「野球が好き」「バスケットボールが好き」「テニスが好き」。子ども達に「どんなスポーツが好き?」と聞くと、いろいろなスポーツの名前があがります。
子どもはスポーツが大好きなんです。
でも実際にスポーツスクールに入ると、「好き」という気持ちだけでは楽しめない。そんな現実にぶつかる子ども達も大勢います。
障がいがあるから一緒にできない。かけっこが遅いから一緒にできない。うまくないから一緒にさせてもらえない……。子ども達のスポーツの現場では、こういう声を多く耳にします。
多くのスポーツスクールは、子どもを「できる・できない」「得意・苦手」「うまい・ヘタ」、こんな基準で分けてしまうと聞きます。プロを目指すようなハイレベルなスクールでは当然のことでしょう。でも多くのスクールがそうだとすると疑問が湧いてきます。
「うまい・ヘタ」「できる・できない」。こうしてデジタル的に分類してしまうことは、スポーツに親しむせっかくの機会をうばってしまうことにならないでしょうか。
障がいのある子どもは、スポーツの多くの場面で「できない」を目の当たりにします。それは運動が苦手な子どもも同じです。クラブで周りについていけなくなると、自分で「ボクはできない」と決めてしまいます。指導者に「キミはできない子」と決められることもあるでしょう。
「サッカーがやりたいけれど、ここでは教えてもらえない」
「やりたいけれど仲間に入れてもらえない」
障がいのある子やスポーツの苦手な子は、こうしてスポーツに親しむ、そして楽しむきっかけをなくしたまま大人になっていきます。結果、スポーツとは縁のない生活を送ることになります。
「すべての子どもが好きなスポーツを楽しめる。スポーツは楽しいと思ってもらえる。そんな環境をつくるのは難しいのかな……」
頭の中がモヤモヤしていたときに、知人を通じてあるスクールを知りました。リーフラスという会社が運営するサッカースクールです。
そこの特徴を聞いて私は驚きました。障がいのある子も、運動が苦手な子もどんどん参加して一緒に楽しんでいる。そして途中でやめる子はほとんどいない。
「どうして?」と、その理由が知りたくて、早速そのスクールを見学してみました。このサッカースクールは全国各地にあり、2万人の生徒がいます。その日、見学した東京・原宿のフットサルコートでは低学年のクラスが行われていて、参加者は14名でした。
今回は障がいのあるお子さんは参加していませんでしたが、コートを走る子ども達のレベルは様々です。サッカーが上手な子、かけっこが苦手な子、背の高い子もいればまだ小さい子もいます。それでも「みんな一緒に」サッカーを楽しんでいました。
参加していた小学4年生の男の子に話を聞きました。このスクールに参加したきっかけは?
「できなくてもいいよ、一緒にやろう。そう言われたから入りました」と明るく答えてくれました。
実際に子ども達のレベルに関係なく、コーチはみんなに同じことを教えています。できる子もできない子も一緒です。
1時間のスクールの間、コーチは一度も叱ったり、「お前はダメだ」というネガティブな言葉を発しませんでした。終始、大きな声でよく笑っていました。失敗した子にも「なにやってんだ!」なんて言いません。「どうして失敗したか、じゃあどうすればいいか」と、問いかけながら丁寧に教えていたのです。
山崎鉄也コーチに話を聞きました。
「子どもはコーチや指導者に認めてもらっている、理解してもらっている、分かってもらっている。そう感じているとのびのびと思い切りやれるんです。人と人がつながるツールがサッカーですから、そこにはできる、できないという区別は元々ないんです」
1時間のスクールは子ども達全員の大きな声と笑顔であふれていました。
「できる・できない」「得意・苦手」。そういう基準で子ども達を分けない。このスクールでは、障がいのある子も運動が苦手な子どもも「サッカーが好き!」という気持ちさえあれば、一緒に楽しめるのです。
「子ども達を区別しない」。そんなサッカースクールは、これまでのスポーツ文化への挑戦にも思えました。
「運動すること、スポーツすることが楽しい」と、子ども自身が実感する。そうすれば生涯、どんな環境になってもずっとスポーツを楽しんでいけるんだろうな。そんな将来像が容易に想像できました。
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>