第65回 「先生!クラスみんなで体育ができるといいのにね」
NPO法人STANDの活動は、ユニバーサル社会を目指しています。様々な場面でその話題に接するとき、子どもの頃からの環境がとても大切だなぁと感じます。近年、特別支援学校だけでなく普通学校に通う、障がいのある子どもの数が増えています。それぞれによい所があって、選択できることが重要なことなのです。
そんな中、気になることがでてきました。普通学校に通う子どもたちは、障がいの有無を超えて、みんなで一緒に学びます。ところが体育だけは、見学になってしまうことも少なくないのです。算数や理科・社会は、障がいに関係なく同じテーブルに着くことができますが、体育だけは同じスタートラインに立てないということになってしまいます。これを繰り返すと、「障がいがあると体育ができない、スポーツができない」という固定概念を生んでしまいます。障がいのある子ども自身、周りの子どもたち、そして先生、保護者にも「そういうものだ」と刷り込まれてしまうのではないでしょうか。それはすなわち、障がい者を特別視するということです。
以前このコラム(第19回「工夫次第で“みんなで”スポーツができる!」)でハンドサッカーについてお伝えしました。これは普通学校ではなく、特別支援学校でのことです。クラスには様々な障がいのある友達がいます。みんな、できることとできないことが違うのです。ある日、ひとりの男の子が言いました。「先生、体育の時間にクラスみんなでできるスポーツがあったらいいのにね」。その思いを実現するために先生たちが知恵を絞ったのがハンドサッカーだったのです。ハンドサッカーはクラスのみんなが、一緒に授業に取り組む体験、そこで生まれる工夫、障がいへの理解がとても大切だということを教えてくれます。
ベストセラー『五体不満足』の著者・乙武洋匡さんは、子どものころ“乙ちゃんルール”(「挑戦者たち」二宮清純の視点 第22回~未来を担う子どもたちへ~)というやり方でみんなと一緒にスポーツをしていたそうです。例えば野球では、乙武さんが打席に立つ時は、打球が内野を超えたらホームランという変則ルールです。走塁は代走というかたちで、他の子に走ってもらいました。ルールを変えて、つくっていけば、みんなで一緒にスポーツができるのです。
障がいのある子どもが、他の子どもたちと一緒に体育の授業に参加できるようにするためにはどうしたらよいか。一つの方法として考えられるのが、小学校教員免許や中学高校の保健体育の教員免許を取得する際、障がい者スポーツ関連科目を必修科目にすることです。このことに長く取り組んで来られた同志社大学の藤田紀昭教授は言います。
「体育の先生は子どもの頃、スポーツが得意な人が多い。『できない』経験が少ないと『できない気持ちがわかりにくい』ということがおきます。『障がいがあるからこのことはできない』。そこから出発して、『どうやったらできるか』を子どもたちと一緒に考え、『できる』を目指していく。そういった指導を授業に取り入れられたら、体育の時間は『障がいがあることイコール見学』ではなくなります。保健体育教員養成を行っている全国の大学の47.9%には障がい者スポーツ関連科目があります。しかし必修ではないのです」
それぞれのクラスには、いろいろなケースがあるでしょう。すべての体育の時間に障がいのある子どもが必ず全員参加、というのは難しいかもしれません。見学の日があってもいいのです。「いつも見学」でなくなることは、障がいのある子どもを含む、クラスみんなの意識をがらりと変えます。「できないこともあるけれど、工夫したり助けあったりして一緒に取り組む」。それが体育の授業の構成要素の一つであることが、ユニバーサル社会に通じるのです。
※参考文献
同志社スポーツ健康科学 第6号
保健体育教員免許の取得可能な大学における障がい者スポーツ関連科目の実施状況に関する研究
著者 藤田紀昭、金山千広、河西正博
<伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>