先週末、格闘技イベントのRIZINを観に行ってきた。お目当てはと言えば、昨年末に衝撃的な総合格闘技デビューを飾った18歳の那須川天心と、女子格闘技界の象徴となりつつあるRENAだったのだが、会場をあとにした時には、もう一人、それまでまったく知らなかった格闘家の名前が脳裏に刻まれていた。

 

 KINGレイナ――。

 

 聞くところによると、一部のファンの間では「暴言女王」と呼ばれているらしい。なるほど、入場前の煽りPVの中でも「わたしより強いやついます?」だの「すぐに海外に行っちゃいますんで」と言いたい放題である。無邪気さをうかがわせる目つきから察すると、本音というよりは演じている気配が強いのだが、何にせよ、見た人の反感を誘発するのは間違いない。当然、わたしも「この子が負けたらどんな顔をするんだろ」という意地悪半分な気持ちで試合を見ることになった。

 

 ところが、体格でも体重でも圧倒的に上回る相手を向こうに回し、KINGレイナは堂々たる戦いぶりを見せた。結果は2Rに腕ひしぎ逆十字でタップを奪っての圧勝である。

 

 こうなると、試合後のマイクパフォーマンスも楽しみになってくる。すると、彼女は期待に違わぬ言葉を発してみせた。

 

「今度のRIZIN、早くオファーしないとわたし海外行っちゃいますよ」

 

 なんと、リング上から次回出場のオファーを要求したのである。場内はもう大爆笑だった。多くの人が彼女の名前は覚えて帰路についたことだろう。

 

 いうまでもなく、わたしは格闘家の専門家ではない。彼女の戦いぶりはすこぶる印象的だったものの、その強さ、凄さをどれだけ理解していたかと問われれば返答に詰まる。KINGレイナという名前が忘れられないものになったのは、彼女の「言葉力」が抜群だったからだった。

 

 さて、同様の力を持った選手が、監督が、日本のサッカー界にいるだろうか。

 

「1-0で勝つよりも、4-5で負けるサッカーをわたしは好む」と言ったのは、奥寺康彦さんの恩師でもあるバイスバイラーだった。「なぜ監督のくせに練習に参加するかって?わたしより上手い選手がいないからさ」と言い放ったのはクライフである。ジダンにしてもマラドーナにしても、歴史に残るような名言を残している。

 

 だが、こと日本サッカーに関して言うと、言葉の力を持つ選手、監督が極端に少ない印象がある。というより、言葉の力というものをまるで考慮していないのではないか、と思ってしまうほどだ。

 

 自分の発言で味方を作り、敵を生み出し、結果的にプロとしての価値を高めていく手法は、極めて有効なはずなのだが。

 

 戦術を語るのもいい。フォーメーションや選手交代の理由を説明するのもいい。だが、ライトな層を新たなファンとして惹きつける言葉を意図する監督もみたい。

 

 サッカー学校の授業のようなコメントには、正直、食傷気味なのだ。

 

<この原稿は17年4月20日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


◎バックナンバーはこちらから