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(写真:57kg級4年生コンビの出口<左>と月野にはポイントゲッターの役割を期待されている)

 大学団体日本一を決める「全日本学生柔道優勝大会」(全日本学生優勝大会)は6月24日からの2日間、東京・日本武道館で開催される。今大会が第26回目となる女子5人制は、大会史上最多7度の優勝を誇る山梨学院大学が優勝候補の筆頭だ。現在3連覇中の団体女王の強さとは――。下級生の頃から主力を担っていた月野珠里主将、出口クリスタ副主将(いずれも4年)に話を訊いた。

 

――前哨戦である5月の関東学生柔道優勝大会では連覇を達成しました。5人制は先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順に戦い、多くの得点(勝ち1点、引き分け0点)を獲得した方が勝者になります。全日本優勝大会はいい流れで臨めそうですか?

月野珠里: 去年よりも得点した数が5点少なくて、自信に繋がるというよりはもっとチーム力を上げていかなければいけないと感じました。

出口クリスタ: 個々の試合を見ていても、去年の方が雰囲気的にも攻めていた気がします。守りに入った選手もいましたし、“このままではダメだな”と思いました。

 

――大会後には選手同士でミーティングも?

出口: はい。各学年で反省点を挙げ、話し合いました。

 

――女子5人制は先鋒、次鋒が軽量級(57kg以下)の選手が任されます。お2人が起用される場合は先鋒か次鋒のどちらかになるわけですが、どのような役割を果たしたいですか?

月野: 私たちの戦略は前2つでしっかり勝って、いい流れをつくりたいということです。

出口: 先鋒次鋒の登録選手は私たち2人と2年生の3人です。メンバーの中で唯一の4年生が、前2人を任される可能性があるわけですから絶対に得点を取って、後ろにつなげていけたらいいなと。

 

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(写真:過去3大会で13戦無敗と抜群の安定感を誇る出口<右>)

――最低でも失点しない?

月野: それは考えていないです。

出口: 2人で最大2点。最低でも1点以上です。ゼロ以下は考えられません。

 

――同じ57kg。お互いの印象は?

月野: いない方がいいと思う時と、いてくれて良かったなと思う時があります。

出口: そうなんだ……。

 

月野: 近くにいるから“頑張らなきゃいけない”と切磋琢磨できる部分はあります。それに団体戦ではとても頼もしい存在です。

出口: たまにいない方がいいけど。

 

月野: アハハハ。個人戦の時はね。

出口: そういうこと? “練習に来るな”って意味かと思った(笑)。

 

月野: そんなこと思ったことはないよ。ただ同じ階級で、お互いに気が強い。周りから私たちは仲悪いと思われがちなんです。でも全然そんなことはないです。

出口: 私は珠里と一緒にいることで、以前よりも柔道に対する意識が高くなりました。それに1年の頃からはっきりモノを言ってくれて、私たちの学年やチームをまとめてくれているので感謝しています。私はあまり他の選手たちに強く言えないタイプなので。

 

――対戦相手としては組みにくい?

出口: 珠里はすごくやりづらいです。私が得意な相手は、珠里は苦手。真逆なんです。

月野: 私たちタイプが全然違うんです。だから2人でよく情報交換をしていますね。柔道に対しての話は一番合うと思います。

 

――分析するならどんなタイプ?

出口: 珠里はすごくトリッキーな柔道。普通の人が使わないような技を掛けてきますし、得意技の内股も独自のアレンジしたものだから守りにくいです。

月野: クリスタは組んで投げる。正統派ですね。力が強いです。

 

 団体戦の重みと醍醐味

 

――さて、史上初の4連覇が懸かる大会にプレッシャーはないですか?

月野: プレッシャーというよりは、新しい気持ちでチャレンジャーのつもりでいます。

出口: 私もプレッシャーは感じていないです。“負けたらどうしよう”ではなくて“取るんだ”という強い気持ちを持っています。

 

――全日本学生優勝大会の印象は?

出口: 闘いです。

月野: 楽じゃないなと。いつも競って、競って、最後に勝つという感じです。

 

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(写真:70kg級の3年生・新添<左>もチームの軸として得点獲得を求められている)

――個人戦とは違う重みがある?

月野: 全然違いますね。でも私は団体戦の方が楽しいです。1人だけが頑張っていても勝てないので。その分、勝った時の喜びも大きいです。

出口: 畳の上で相手と戦っている時は1対1ですから感覚としては個人戦に近いです。でも自分の試合が終わった後に仲間の試合を見ている時は個人戦にはない緊張感がありますね。選手も見ている人たちも団体戦の方が面白いと思います。

 

――山梨学院大の特徴は?

月野: チームがまとまっているというよりは、各自が向かっている目標は一緒だから、結果として最後にはまとまっているのだと思います。

出口: 他の大学と比べても、わかりやすく一致団結しているようには見えないかもしれません。実際、大会2週間前になってもまとまりがない時はあります。でも目標が一緒だから、最終的には同じところへ向かっていける。それぞれの個性が強過ぎて、まとまっていないように見えるけど、実はまとまっているんです。

 

――対戦相手として見たら嫌なチーム?

月野: すごく攻めの柔道をする。受け身の柔道をする選手がいないと思います。私がもし他大学だったら一番対戦したくないと思う。

出口: 選手は満遍なく揃っているので、どの階級で当たったとしても嫌ですね。

 

――ライバルはやはりここ5大会で4度決勝に進出している環太平洋大学(IPU)でしょうか?

月野: IPUと帝京大学ですね。

出口: 私もそう思います。特にIPUはどの階級にも強い選手が揃っていて、総合力が高い。

 

 闘将の指導哲学

 

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(写真:大会中に声を出し過ぎて注意を受けるほど熱い山部監督<右端>)

 団体戦では選手の起用法も勝敗のカギを握る。その点では山梨学院大4連覇のキーマンは、女子の創部時から監督を務める山部伸敏である。熱血漢で知られる山部だが、月野によれば「感情的になって怒られたことはないです」と言う。出口も「怒るというよりは注意。“こういうところがダメで、次からこうすべきだ”と道を示してくれるような言い方で指導してくれます」と証言する。絶妙な距離感で学生に接する山部。その指導哲学を訊いた。

 

――選手からお話を聞くと、「監督は優しい」とおっしゃっていました。時には腸が煮えくり返るような時もあるのでは?

山部伸敏: それは皆さんあるんじゃないですか。若い時は感情だけでやって反省する部分もありました。でも人間ですから感情が表に出ることもありますし、場合によっては出さなきゃいけないときもある。一歩引いて見て、今何が必要かを考えることが大事だと思います。

 

――指導者として意識していること、譲れないことはありますか?

山部: 自分の考えを押し付けようとは思わないです。形だけにこだわりたくない。教え過ぎ、与え過ぎてもダメですし、一方で生徒に考える余地も残さないといけません。選手のオリジナリティーを優先することもあれば、指導者として“ここは引けない”という部分もありますから、そのあたりの駆け引きは難しいですね。

 

――特に難しいと感じる部分は?

山部: 選手に自分で気付かせるのは難しい。そこは私の指導力の無さがあると思いますが、選手自身が持っている資質もあります。気付いても変われない子はいますからね。

 

 歴史をつくれるのは自分たちだけ

 

――全日本学生優勝大会が控えていますが、まずは関東学生優勝大会の優勝を振り返ってください。

山部: 新メンバーになっての初めての大会でした。全国大会という大きな目標があるのですが、その前に関東大会で勝たないと新メンバーでの自信や勢いがつかない。試合内容に課題はありました。失点は昨年と同じ1点なんですが、得点が12点から7点と少なかった。つまり引き分けが多かったんです。

 

――団体戦と個人戦の違いはなんでしょう?

山部: 団体戦の場合は1人が「一本」で勝つのか負けるのか、「技あり」で勝つのか負けるのか。あるいは引き分けもあります。1試合の結果や内容で、その後の展開はガラリと変わっていきます。「この引き分けがあったから勝った」「一本勝ちでチームが乗れたから逆転勝ちできた」ということがあるので、その点は個人と団体は大きく異なりますね。

 

――監督の起用法がカギを握るのも団体戦の魅力です。

山部: この大会が一番悩むし、やりがいも面白味もあります。個人戦とは違い相手の出方を見ながら、オーダーを決める。他の大会と比べても緊張感が違いますね。

 

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(写真:柔道場には学生が決めた目標とスローガン<左>が掲出されている)

――当然、目指すのは4連覇?

山部: そうですね。それが私ではなく、彼女たちの目標ですから。ウチは前期後期に分けて、学生たちに目標を立てさせます。前期の目標は「関東学生柔道優勝大会優勝」「全日本学生柔道優勝大会4連覇」です。

 

――選手たちには優勝という結果を求められる重圧もあります。

山部: 歴史をつくれるのは、3連覇しているウチしかないわけです。だからいい意味でプレッシャーを楽しめるかがひとつのポイントですね。焦って硬くなったら自分の力を出せない。前向きにとらえて、プレッシャーを楽しめるぐらいの準備ができれば自ずと達成できると思います。それはなかなか難しいことで、相当な裏付けがないとダメですね。

 

――監督が思う山梨学院大の強さ、伝統はなんでしょう?

山部: 学生が目標を立てて、一部だけではなく全員がそこに向かっていけるところ。そういう文化はできてきていると思います。それは変わらないところですし、変えてはいけない。登録は8名ですから、試合に出られない部員がほとんどです。しかし、漏れた選手も含めて同じ気持ちで試合に向けてやっていくことが大事だと思います。

 

1706BS11PF(1)月野珠理(つきの・しゅり)プロフィール>

1995年7月27日、愛知県生まれ。階級は57kg級。3歳で柔道を始める。愛知の大成高3年時には、全国高等学校総合体育大会(インターハイ)と全日本ジュニア柔道選手権大会で、いずれも3位に入賞した。山梨学院大入学後は2年時にポーランドジュニア柔道国際大会で優勝を収めた。団体戦も主力として活躍し、全日本学生優勝大会の3連覇に貢献した。身長164cm。得意技は内股。

 

 

 

 

1706BS11PF(2)出口クリスタ(でぐち・くりすた)プロフィール>

1995年10月29日、長野県生まれ。階級は57kg級。3歳から柔道を始め、松商学園高1年で全国高等学校総合体育大会(インターハイ)優勝。3年時には全日本ジュニアで優勝、世界ジュニアでは3位に入った。山梨学院大に進み、1年で世界ジュニア2位。昨年は全日本学生体重別選手権を制した。団体戦も1年時から主力として活躍し、全日本学生優勝大会3連覇に貢献。身長160cm。得意技は大外刈り。

 

 

 

 

1706BS11PF(3)山部伸敏(やまべ・のぶとし)プロフィール>

1969年4月4日、熊本県生まれ。現役時代は65kg級。小学1年で柔道を始め、一の宮中、鎮西高を経て、鹿屋体育大に進学。同大学院を経て、自衛隊体育学校へ進んだ。講道館杯では93年から3年連続で3位に入った。2000年から山梨学院大柔道部女子監督、男子コーチを務める。全日本学生優勝大会では06年の初優勝を皮切りに、史上最多の7度の優勝に導いた。

 

 

 BS11では「全日本学生柔道優勝大会」の模様を6月25日(日)20時から放送します。今回取り上げた山梨学院大の他にも、王座奪還に燃える環太平洋大学や帝京大学も上位進出が予想されます。3年後の東京五輪での活躍が期待されるホープたちの活躍もお見逃しなく!


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