第818回 王貞治は「神の眼」を持つ男
Ⅴ9巨人を牽引した両雄・王貞治と長嶋茂雄の最大の相違点は、ストライクゾーンに対する考え方だったように思う。
長嶋は、審判が決めた<ストライクゾーンを踏襲しなければならない理由はない>(自著『ネバーギブアップ』集英社)という考え方で、<顎の下を通る球など、私にとってはド真ん中の球に見えてしまうのである。キャッチャーが立ちあがり、投手が明らかに敬遠の意志を持って投げた球をホームランにしたことも再三ある>(同前)と述べているのに対し、王は、私のインタビューにこう答えた。
<僕はどちらかというと、甘いボールを見逃さずに打つタイプのバッターでした。ピッチャーの失投を見逃さない。要するに難しいボールを打てる確率は低いということです。だから2ストライクに追い込まれるまでは、(コース)いっぱいいっぱいのボールには手を出しませんでした>(『プロ野球 名人たちの証言』講談社現代新書)
ホークスの戦いぶりを見ていると、球団会長を務める王の野球観が、しっかりチームに根付いていることが窺える。
7月1日現在、首位ファイターズから3ゲーム差の3位だが、被四球数(故意四球含む)は、リーグトップの220。
2位ファイターズに、13.5ゲームの大差をつけてリーグ優勝を果たした昨シーズンも被四球数(同)は436で、リーグトップだった。
王イズムの優等生が、今季ブレークした柳町達だ。目下3割1分9厘で、首位打者争いのトップを走る。加えて被四球数(同)も現在2位。トップはイーグルス浅村栄斗の41だが、柳町は彼より42打席も少ない。
王はこうも言っていた。
<はっきり言って、僕は審判よりもストライク、ボールの判定に関しては自信を持っていました。だから僕がボールと判断して見逃したのに、審判がストライクと言おうものなら“審判が間違えたな”と思っていましたよ>(同前)
世界の王は「神の眼」を持つ男でもあった。
<この原稿は2025年7月21日号『週刊大衆』に掲載されたものです>
