急成長の小林絆と濱田哲太。再起図る宮木果乃 ~柔道~
大学日本一を決める「ALSOK presents 2025年度 全日本学生柔道体重別選手権大会」(全学体重別)は9月27、28日の2日間、東京・日本武道館で行われた。オリンピック、世界選手権のメダリストの登竜門でもある。今後の活躍に期待の3人の大学生柔道家を紹介したい。
カラフルな足下
まず1人目は日本体育大学3年の女子70kg級・小林絆。彼女はエリートではない。小中高と全国タイトルには縁がなかった。小学1年から始め、「一本」にこだわってきた“攻めの柔道”が、ここにきてようやく花開きつつある。9月13日に行われた全日本ジュニア選手権大会で優勝し、キャリア初の全国タイトルを手にした。
開花のきっかけは何か――。昨年、全日本ジュニアで3位に入ったことにより、全日本柔道連盟の強化指定選手、女子C強化(ジュニア)に選ばれた。日体大監督の小嶋新太は、これが彼女の成長につながったと見ている。
「海外派遣をしていただき、全日本の先生に鍛えられ、一皮も二皮も剥けた。そこで今まで見えていなかった世界が見えてきた。柔道について、さらに意欲的になったと感じますね」
昨年のオフから休みを返上して稽古・トレーニングに取り組んでいる。「(全日本ジュニアの3位は)本当に運が良かったと自分の中で思っていました。ただ、その運の良さだけで終わるのは悔しい。今シーズンは“休まず全力でやり切る”という気持ちで臨んでいます」と小林。豊富な稽古量でタフさ、粘り強さを身に付けた。
加えて筋力アップも図っている。ウエイトトレーニングを週5。目標をプラス20kgに定め、スクワットは100kgから120kg、クリーンは50kgから70kgの重量を挙げられるようになった。ベンチプレスは目標まで2.5kg足りないが、確実にパワーアップした。彼女は語る。
「パワーは自分が痛感した弱みだった。どうにかしてもパワーを付けないと、シニア相手どころか学生相手にも勝てないと思ったんです」
際立つのは力強さだけではない。会場で彼女の姿を見た時、足下に目が留まった。両足に巻かれたテーピングが色鮮やかだったからだ。赤と黄色、紫と黄色……。組み合わせは大会ごとに異なる。その理由を本人に聞くと、こう答えた。
「カラフルなのが好きなんです。白や黒よりはカラフルな方が自分の気分が上がる。試合に向けた稽古からカラーは統一しています。赤と黄色はオムライスカラー、紫と黄色は焼き芋。減量中はお腹が空くので、自分の好きな食べ物をイメージしているんです」
気分転換を大事にしている。試合の合間には両親と連絡を取り、会える時間をつくって話をするという。「親に会うのが一番の回復方法。次の試合に向けて気持ちをリセットできるんです」。また日体大の仲間たちと談笑するのは、自らの緊張をほぐす狙いがある。「一番リラックスできるのは仲間との空間。いろいろな人としゃべることが、私のリラックス方法です」と小林。カラッとした笑顔が特徴の21歳だ。
独特の背負い
次に紹介する成長株は、日本大学4年の男子100kg級・濱田哲太である。彼も小林同様、大学まで全国区の選手ではない。6月の「羽田タートルサービスpresents 2025年度全日本学生柔道優勝大会」(全日本学生優勝大会)では、日大の28年ぶり6度目の優勝に貢献し、勢いに乗っている。
得意技は独特のかたちで入る背負い投げだ。本人曰く「どこを持っても背負い(投げ)に入れる。そして泥臭く戦えるのが自分の強みです」。濱田を指導する金野潤監督も「高い位置から投げられる背負い投げ。普通であれば、しっかりポジションを取って投げられないのですが、濱田の場合は相手が防ぎにくい角度から入れるのが武器です」と語る。
「勝つことよりも自分の柔道を貫きなさい」。それが金野の教えだ。金野は言う。
「勝ちたいと思うことはもちろん大切ですが、そこにこだわり過ぎて本来の柔道ができなくなると結果も良くなくなる。大事なのは自分の柔道を貫くこと。もし負けてしまったとしても、それは相手が強かったと受け入れるしかない。それに自分の柔道を捨ててしまっては、勝っても負けても得るものがないと思うんです。勝ちだけを狙う戦い方はして欲しくなかったんです」
濱田らしさとは、金野によれば「アグレッシブな柔道」だ。
「相手が強くてもビビることがない。強者に立ち向かっていく精神は才能。シニアの大会でも結果を残せる選手になると僕は信じています」
金野の指導の下、着実に力を付けてきた。
ガムシャラでアグレッシブな戦い方をし、「技術というより、勝手に体が反応する」というコメントからも一見、感覚派に映る。だが、金野によれば論理的な一面もあるという。
「毎回試合が終わると、振り返りを行うのですが、その文章が的確で論理的に整理できている。濱田はその4年間の積み上げが力となり、現在の柔道が良くなっているのだと思います」
濱田は自らをこう評す。
「僕は天才でもないし、強い選手でもない。ただ優勝もあれば1回戦負けもあるような面白い選手だと思うんです。だから、上を見過ぎず、ひとつひとつ泥臭くて戦っていく」
大言壮語はしない。だが、何かやってくれそうな期待感が漂っている。
再び世界女王の道へ
最後に紹介するのは、再起を図る日大2年の女子48kg級・宮木果乃だ。彼女を指導する上原(旧姓・西田)優香コーチは、「勝負師としての感覚は鋭く、柔道技術の完成度が高い。しっかり投げて勝てるタイプ。魅力的な選手です」と高く評価する。上記の2人とは違い、中高生の頃から実績を重ねてきたホープである。
全国中学校柔道大会の44kg級で優勝、全国高校選手権大会では48kg級を制した。高校3年時には講道館杯全日本柔道体重別選手権大会でシニア相手に2位。世界カデ(15歳から17歳)選手権大会、グランドスラム東京、ベルギー国際で優勝するなど国際大会でも結果を残してきた。
2023年、日本大学に進学してからも世界ジュニアでオール一本勝ちによる優勝。講道館杯は2年連続3位ながら、今年2月28日(現地時間)に行われたグランドスラムタシケントで優勝した。
しかし、好事魔多しである。4月の「全日本選抜柔道体重別選手権大会」で当日計量失格となったのだ。当日計量対象者は出場者全員ではなく各階級4人が無作為で選ばれる。当日計量の結果、階級の5%以上体重オーバーした場合、失格となる。その最終調整に宮木は失敗したのだ。計量失格となった彼女は、全日本柔道連盟の規定により強化指定選手から外された。
本人は猛省する。
「自分の意識の低さが出た。何度も柔道を諦めそうになりました」
2カ月ほど柔道から離れた。「もう一度、畳に戻ろうと思えたのは上原先生たちの存在のおかげ。私と一緒に柔道がしたい、と声を掛けていただいた。『どんな自分でも受け入れる』とも。これほど信用できる先生はいません。もう一度頑張ろうと、思えました」
それを受けて、上原は語る。
「彼女が休んでいる間も連絡を取っていました。稽古ができそうだったら稽古をし、話ができそうだったら話し合うことを繰り返してきました。最初は本人も畳を見るのが苦しいという状況だった。立ち直ることが大事だということを言い続けてきました。最後は私が『団体戦で一緒に戦いたい』と伝えたら、本人も『出る』と言ってくれた。そこをきっかけに私と果乃で光を見つけていったという感じです」
再び茨の道を歩むと決めた宮木。目標に据えるのは「世界チャンピオンになること」だ。
※BS11では今回紹介した3人が出場する「ALSOK presents 2025年度 全日本学生柔道体重別選手権大会」の模様を10月5日(日)19時から放送します。男子の解説は全日本柔道連盟強化委員長で、SBC東京医療大学柔道部の山田利彦部長が、女子はパリオリンピック女子57kg級金メダリストの出口クリスタさんが務めます。また11月1、2日に行われる「講道館杯全日本柔道体重別選手権大会」も2日(日)19時から放送予定です。
(取材・文/杉浦泰介、写真/大木雄貴)