櫻井裕子(女子プロレスラー/愛媛県八幡浜市出身)第3回「まさかのプロレスデビュー」

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 2014年、櫻井裕子は6年間、暮らしていた神戸に別れを告げ、東京へと向かった。声優を目指すため、神戸で通っていた専門学校とは別の学校を受験し、入学した。

 

 技術やノウハウを学ぶだけでなく、その先の道を考えての選択だった。

「最終学年になった時に公開オーディションのようなものがあり、声優を含め、役者を抱える事務所の方が見に来る学校でした。そこで事務所の方が“いいな”と思えば、その学生と面接して採ってもらえるかが決まるんです」

 

 母・佳代子は当時をこう振り返る。

「働きながら専門学校にも通っていたので、声優を目指していることは知っていましたが、突然上京することになり、驚きました。ただ事後報告でいろいろと決めた後に聞いたので、『大変だけど頑張って!』と送り出しました」

 

 アルバイトで生計を立てながら、2年間学校に通った。迎えた最終学年時に櫻井はその公開オーディションで預かり所属ではあるものの、声優事務所入りが決まった。声優への道に、また一歩近付いたのだ。

 

 しかし、その後は“鳴かず飛ばず”だった。

「事務所での仕事は全然なかったんです。ガイドの吹き替えにガヤとかで参加はあったんですが……」

 事務所に所属して約2年が経とうとしていた時、櫻井に転機が訪れる。声優事務所の社長が、当時プロレス団体だったアクトレス・ガールズ(現在はプロレスを用いたスポーツエンターテインメント団体)の代表と知り合いだったため、櫻井ら所属タレントに声がかかったのだ。

 

 当時のアクトレス・ガールズは、2015年に設立された女優によるプロレス団体だ。現在はSTARDOMの安納サオリ、なつぽい、壮麗亜美、マリーゴールドの青野未来、天麗皇希らを輩出した。

 櫻井は語る。

「アクトレスには当時、声優がいなかったので、『誰かいない?』ということで私と仲が良かった同期・入江彩乃に声が掛かったんです。彩乃は『オマエは絶対そういうのをやったら、おもろいと思うからやってみろ』と強く勧められ、『オマエは決定だから、好きなヤツ連れて行っていいよ』と言われたみたいなんです。それで彩乃から『裕子がいれば私も頑張れる』と誘われたんです」

 

 仲の良い同期に誘われ、練習生となったものの、プロレスに対しする興味はなかった。

「代表から『1回練習見に来てみたらどうや』みたいな軽い感じで誘われました。私も『じゃあ1回見に行ってみようか』で参加したら、『また次も来てな』と、あれよあれよという間にでした」

 

 

初めて観客が見えた場外乱闘

 声を駆使して演じる声優に対し、身体を張ってリングで戦うプロレスラー。表現者という共通点はあるが、ほぼ真逆の職業と言っていい。

「周りの先輩たちがいい人たちばかりでした。いろいろ親身になって教えてくれる。そこで『私、プロレスやるつもりないんです』とは、とてもじゃないけど言えませんでした」

 

 家族の反対があったと、容易に想像できる。母・佳代子はどう思っていたのか。

「上京時と同じく、突然で事後報告でした。声ではなく体を使うこと。元々、身体を動かすのが得意ではないから“無理じゃないかなぁ”“大丈夫かなぁ”“怪我はしないのか”と心配しました」

 

 それでも櫻井は数カ月の練習生を経て、2018年11月18日の後楽園大会でデビューを果たした。櫻井は同期の林亜佑美、松井珠紗と、大ベテランの堀田祐美子を加えた4WAYマッチのリングに上がった。結果は4分51秒。堀田に3人まとめてボディスラムから体固めで仕留められた。

 

「最初はできなさ過ぎて、“よし、試合を楽しもう”という気持ちで試合に臨めなかったんです。“今日は失敗しないかな”“大丈夫かな”みたいな思いで行き、それで失敗ばかりしていました」という櫻井。それが、いつしかプロレスの魅力にハマっていくのだから不思議な世界である。

 

 2019年10月15日。アクトレス・ガールズは「埼玉障がい者祭り」というイベントでプロレスの試合を提供した。櫻井は現在もガールズプロレスリングユニット『COLOR’S』を組む先輩のSAKI、そして同期の入江との3WAYマッチに出場した。

「その時までSAKIさんと試合する機会もなかった。先輩と組んでのタッグマッチか、ベテランとのシングルマッチが多かった。もう1人は一緒にアクトレスに入った彩乃だったので、2人で結託して戦いました。負けてはしまったのですが、その試合で初めて場外乱闘をしたんです」

 

 そこで今までは気付けなかったものに目が留まった。自分たちの戦いに熱狂する観客の表情だ。

「それまでは緊張し過ぎて、お客さんの応援する姿が見えていなかった。その時、ご年配の方や子どもが楽しそうにしているのを見て、私自身がプロレスを楽しめたんです」

 

 デビューから約1年後、彼女が本当の意味でプロレスラーになった瞬間だったと言えよう。この経験から、受動的だったレスラー人生も、いつしか能動的に変わっていく。

 

(最終回につづく)

>>第1回はこちら

>>第2回はこちら

 

櫻井裕子(さくらい・ゆうこ)プロフィール>

1991年8月28日、愛媛県八幡浜市出身。中学時代は吹奏楽部、高校時代は生物部に所属した。大学卒業後、アパレル会社に就職。2年勤めた後、声優を目指し、上京。声優事務所に所属後、アクトレス・ガールズに練習生として加入。18年11月に後楽園大会でデビュー。現在はフリーとしてwaveのリングを中心に上がっている。24年12月、宮崎有妃とのタッグでWAVE認定タッグ王座を獲得した。身長164cm。得意技はブレーンバスター・ホールド、ドラゴンスリーパー、コブラツイスト。好きな食べ物はアイス、メロンパン。

 

(文・プロフィール写真/杉浦泰介、その他の写真/本人提供)

 

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