W杯第3GKに新基準「Jで一番PKを止めた男」

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 蹴れば80%前後の確率で決まる。にもかかわらず、PKは苦手だ、嫌いだと公言する名ストライカーは珍しくない。

 

 気持ちもわからないではない。彼らは普段、野球のバッターに近い感覚で生きている。つまり、7回失敗しても、ひょっとしたら8回、9回失敗しても、1回成功すればよしとされる世界。だが、PKとなると、求められる確率は突如として投手のそれに変わる。一度の失敗で、9度の成功が帳消しになる世界。アジャストするのは簡単なことではない。

 

 一方で、PKが苦手だ、嫌いだとこぼすGKは見たことも聞いたこともない。普段、ミスが許されない世界に生きている彼らにとって、決められても責任を問われることがないPKは、ちょっとしたパラダイスですらある。アタッカーたちのように、PK戦という存在に怖じけづくことはない。

 

 ただ、PKを苦手とするGKがいないからといって、すべてのGKがPKを得意としているわけではない。さらにいうなら、PKストップの能力は、GKとしての能力と必ずしも比例しない部分もある。

 

 川口能活と楢崎正剛。どちらも代表の守護神として素晴らしい活躍を見せた2人である。サイズやタイプもまるで違っており、トルシエは楢崎を重用し、ジーコは川口を選んだ。正直、どちらを使うかは好みの問題であり、優劣がつけられる2人ではなかった、とわたしは思う。

 

 だが、ことPKとなると印象はまったく違ったものになる。楢崎がPKを得意としていなかった、とは思わないが、川口が大一番で見せたいくつかのPKストップの印象が、あまりにも強烈なのだ。川口に限らず世界には「PKになるとやたら頼りになるGK」という人種が確実に存在する。

 

 なぜ川口はPKに強かったのか。わたしには答えがない。いまの日本で、誰が一番PKを得意とするGKなのかもわからない。これは日本に限らず、世界中ほとんどの国がそうだとも言える。判断材料となるのは、基本、選ぶ側の主観である。

 

 だが、今年に限り、常識は少し覆る。日本だけで、覆る。

 

 先週末に開幕した百年構想リーグでは、特例としてPK戦による決着が導入されている。つまり、誰がPKにもっとも強いGKなのかが、主観を排したデータによって明らかになる。

 

 おそらく、今回も森保監督はW杯北中米大会に3人のGKを連れていくことになるだろう。正守護神は鈴木で決まりとして、残る2枠に誰が収まるかが注目となる。

 

 これまでであれば、第2、第3のGK選びは極めてオーソドックスな判断で決められていた。2番目にいいGK、3番目にいいGK、である。

 

 ただ、JリーグでPK戦が採用された今年だけは、違った基準を持ち込むことができる。ほぼ出番のないことが予想される第3GKのポジションに、「Jで一番PKを止めた男」を抜擢することが可能なのだ。

 

 対象となるのはJ1だけではない。たとえJ2、J3のGKであっても、PKを止めまくることができれば、代表への道が開かれていい。フィード能力が低くても、ハイクロスの処理が下手でも、PKを止める能力だけは高いGK。そんな第3GKがいてもいい。

 

 ちなみに、先週末はJ1で4試合、J2・3で3試合のPK戦があった。これからの半年で、データはどんどん積み上げられていく。そこで阻止率が3割を超えるGKが現れたら――味方にとっても、大いなる助けとなるはずだ。

 

<この原稿は26年2月12日付「スポ-ツニッポン」に掲載されています>

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