第835回 MLB「ロボット審判」の評判
NPB通算213勝の広島・北別府学は、現役時代“投げる精密機械”の異名をとった。
バッテリーを組んだ達川光男は「北別府はボールの縫い目ひとつで勝負するピッチャーだった」と語っていた。
縫い目ひとつは、約0.95mm。つまり1ミリ未満である。北別府本人に質すと「まあ、1ミリというのは大げさ。ボール半個分でしょうか」と真顔で語っていた。
ある日、北別府が自信をもって投げ込んだ球が、審判にボールと判定された。振り向きざま、達川は叫んだ。
「入っとるでしょう!」
「いや、1ミリ外れとる」
達川は、「どうやって1ミリを見分けるんかのォ」と苦笑していた。
MLBで今季からロボット審判(ABS)が導入された。ボール・ストライクの判定に納得いかない場合、投手、捕手、打者には「チャレンジ」を要求する権利が付与された。
自らの帽子かヘルメットをポンと叩けば、そこから先はABSの仕事。球場に設置された12台のカメラを駆使してボールの軌道や位置を正確に測定し、ジャッジ通りか否かを判定する。
MLBが導入した新制度を、数年遅れでNPBも採用するのが、これまでの通例だ。そう遠くないうちに、日本の選手たちも帽子かヘルメットをポンと叩く日が来るのだろう。
スポーツベッティングの盛んな米国では、ボール・ストライク1球の判定が試合の流れを左右し、賭けの結果に直結する。そのため、“誤審”を犯した審判はSNSなどで、しばしば槍玉に上げられる。
中には家族まで脅迫にさらされるという事案も報告されており、ABSの導入は待ったなしだった。
評判はどうか。まだ、スタートして1カ月足らずだが、ドジャースの山本由伸が「正しいジャッジをしてもらえるのは好き」と語っているように、現場の声は概ね好評だ。
北別府が生きていたら、ABSをどう評しただろう。
<この原稿は2026年4月27日号『週刊大衆』に掲載されたものです>
