Jリーグで“すごい”プレーがたくさん出てほしい ~水沼貴史氏インタビュー~
プレーヤー、指導者、解説者として日本サッカーを見つめ続けてきた水沼貴史さん。熱い情熱と冷静な分析眼を持つ水沼さんと当HP編集長・二宮清純が、日本サッカーの過去・現在・未来を語り合う。

二宮清純: さっそくですが、ワールドカップ北中米大会(アメリカ・カナダ・メキシコ共催)の日本代表の戦いぶりを振り返りたいと思います。日本はグループFを2位で決勝トーナメントに進出。ここまでは大体予想どおりでしたが、ブラジルに1対2で破れました。この結果と戦い方に関しては、さまざまな意見がありますが、水沼さんはどうお感じになりましたか。
水沼貴史: 2025年10月のキリンチャレンジカップでブラジルに勝ち、続いてアウェーでイングランドに勝った(26年4月)ことで、かなり期待値が高まっていましたよね。その分、落胆度合いも大きかったのでしょう。その上で個人的には、本大会での引き出しの数がまだ足りないなという印象でした。
二宮: 例えば?
水沼: ブラジルは後半にクロスを増やし、高さ勝負に変えてきましたが、日本はそれに対応できなかった。そもそも、そういうふうに戦術を変えてくる事態を想定できていたのかも分かりませんが……。
二宮: 森保(一)監督は「想定はしていた」と言っていましたが、立てた対策が有効だったかについては、検証が必要です。
水沼: ええ。また同じく後半、日本はウイングバックの選手たちが守備に引っ張られ、ボールを保持する時間もなかなか作れなかった。逆にブラジルは、それまでの試合ではそんなにボールを保持はしていなかったのに、この試合ではボールを結構保持してきた。この急な変化に対して日本は、前に行きたいけれども行けなくて、半ば困惑した感じがありました。
二宮: なるほど。選手交代についてもお聞きしたいのですが、後半、森保監督は菅原由勢選手と鈴木淳之介選手を投入しました。両ウイングバックを同時に代えたわけですが、どちらかと言うと守備的なカードの切り方に映りました。
水沼: 完全に守備に入りましたね。漏れ伝わってきた話によると、森保監督は、延長まで行っていい、PK勝負でもいいと考えていたようです。この交代にも賛否がありましたが、僕は、監督が判断したことは尊重すべきだと思うんです。これは森保監督に限らず、あらゆる監督に対しても同様。それこそ何十通りも頭の中でシミュレーションして、ベンチにいる選手たちを見て、監督がベストだと思った戦術を選んでいるわけですから。
二宮: ブラジル戦でもそうでしたが、日本にリードを許した場合、相手はロングボールを放り込んだり、サイドからクロスを放り込んだりと、いわゆる飽和攻撃を仕掛けてくる。“ロストフの14秒”と呼ばれる18年ロシア大会でのベルギー戦がその典型です。こうした攻撃に対する解決策はまだ見つかっていない。
水沼: 高さが必要だという人もいますが、日本の最終ラインは冨安健洋選手(187㎝)や伊藤洋輝選手(188㎝)など大型化が進んでいます。むしろ今は単純なクロスではなく、ペナルティエリアの角辺りとか、ニアゾーンの深い所から上げてくるので、それにどう対応するかが課題です。
二宮: ブラジル戦のカゼミーロ選手の同点弾(後半11分)も、まさに自陣深くからボールを戻され、ペナルティエリアの左手前からのクロスに合わされました。
水沼: その通りです。そこで大事になってくるのが、いかにクロスに対して相手に触らせないかということ。日本人はヘディングで競り勝ち、ボールを跳ね返そうとしますが、タイミングや高さが違うと逆にやられてしまいます。そうではなく、体の当て方を工夫して、相手にボールを触れられないようにすることの方が重要なのです。ぜひ、そうした体の使い方の研究も進めてほしい。
二宮: 一方で、日本のプレスバックは世界でも通用したし、攻守の切り替えの速さは一定の評価を得たと思います。
水沼: 大岩剛監督(U-21日本代表監督)はバルセロナの育成コーチから、「日本の守備の組織は美しい」と言われたそうです。これは日本のサッカーの良いところでもあるし、これにプラスして個人の戦術眼が上がってくれば、さらに変わっていくと思います。
二宮: 今回のW杯決勝ですが、優勝したスペインはリオネル・メッシを擁するアルゼンチンに、90分間一度もシュートを打たせませんでした。ボールを取られないからピンチも招かない。これを決勝の舞台でやってのけるスペインはW杯王者にふさわしいチームでした。
水沼: スペインは一人一人のスキルが高いと考えがちですが、2~3人のグループでの動き方がうまい。例えばボールを奪われそうになった時も、組織的に(ボール保持者の)逃げ場所をたくさん作るんです。日本は個の力を伸ばそうと努力してきて、今は一定のレベルになってきた。それはそれで大事なことですが、これからは2~3人のグループで戦えるような術を身につけた方がいいと僕は思います。
二宮: このスペインに学べ、という意見が非常に多い。たとえばスペインの4-3-3、4-1-2-3といったフォーメーションを、日本もジュニア世代から導入し、日本の型を作るべきだ、という意見がある一方で、システムについては多様性があっていい。監督やコーチににはいろんな考え方があり、それを尊重すべし、という声もあります。
水沼: 岡田武史さん(元日本代表監督)も言っていましたが、日本にはまだ“これ”という型がありません。どんな型がいいのかは、まだ指導者も迷っているし、試行錯誤の段階だと思います。ただ、「この型でやる」と決めてしまったら選手は型にはめられ過ぎて、うまくいかなくなるような気がします。
二宮: 日本と欧州では選手の育成環境もだいぶ違いますからね。
水沼: おっしゃる通りです。欧州はクラブでずっとやっていきますが、日本はクラブの他に中体連(日本中学校体育連盟)も高体連(全国高等学校体育連盟)もあって、それぞれの良さがある。こうした育成環境の多様性は、日本サッカーの文化として武器にするべきだと思っています。
二宮: 今回のW杯を見ていて、他に感じられたことは?
水沼: 僕は今回のW杯におけるスペインの戦いぶりを見ていて、本当に“うまい”チームだなと思いました。それに対して、アルゼンチンは“すごい”チームだった。
二宮: すると、今回のW杯では“うまい”が“すごい”を上回ったと?
水沼: はい。今の日本もどちらかと言えば、“すごい”よりも“うまい”かもしれない。そのうまい選手たちが、タイトにプレーして、デュエル(球際の勝負)でも勝てれば、いいチームになると思います。ただ、Jリーグの中では“すごい”プレーもたくさん出てきてほしい。
(詳しいインタビューは9月1日発売の『第三文明』2026年10月号をぜひご覧ください)

<水沼貴史(みずぬま・たかし)プロフィール>
1960年5月28日、埼玉県浦和市(現・さいたま市浦和区)出身。幼少の頃からサッカーに親しみ、中学3年の時に、全国中学校サッカー大会で優勝。その後、高校サッカーの強豪・浦和市立南高校(現・さいたま市立浦和南高校)に進学。1年生からレギュラーとして活躍し、冬の全国高校選手権で優勝を果たす。2年生の時にユース日本代表に初選出。法政大学進学後、関東1部リーグ復帰と総理大臣杯優勝に貢献した。83年に日産自動車入社後は、同社サッカー部のフォワードとして、日産黄金時代(7冠)を築く。86~87年シーズンには、17アシストをあげ、アシスト王を獲得。Jリーグスタート以降もベテランとしてチームを牽引し、95年に現役を引退。日本代表では国際Aマッチ32キャップ、7得点。横浜F・マリノスのコーチ、監督を経て、現在は解説者として活躍中。